理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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腹部弾性補助帯が呼吸メカニクスに与える影響
安達 拓平野 正広増山 素道秋月 三奈安達 みちる猪飼 哲夫吉野 克樹
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p. Db1210

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抄録

【はじめに】 胸腹部の弾性力は換気力学において重要な意義を持っている。特に腹壁の筋群は吸気では横隔膜の収縮に拮抗し腹腔内圧を上昇させzone of appositionを介して胸壁の拡張に作用する。従って腹壁筋の弾性力の低下は腹腔内圧が上がらず、胸壁の拡張性を低下して結果的には換気効率を悪くする。また腹筋群は最大の呼気筋力を発揮する筋である。このように腹壁は換気に密接に影響を与える重要な要素である。栄養障害者、るい痩者、重症COPD者では腹筋が弱化し、腹壁弾性力は著しく低下しており、これが換気の障害要因となっていることが予想される。腹壁の弾性力を強化するには腹筋筋力トレーニングが最適であるが、それには継続と時間を要し、高齢者、体力低下者等へは応用に限界がある。今回、腹筋群の代用として弾性バンドを使用し、腹壁に弾性帯を装着した時の換気メカニクスへの影響を検証し、呼吸リハビリへの応用の可能性を検討した。【方法】 対象は健常成人とし、ニューモタコメーターにて換気諸量(Flow Volume)を計測し、胸腹壁の動きと各部の容量(Vrc.Vab.Vcw)をレスピトレースを使用しアイソボリューム法にて校正したのちkonno-mead ダイアグラムで解析した。また体腔内圧を胃・食道バールーン法にて胸部内圧(Pes)、腹部内圧(Pga)を計測し径横隔膜圧(⊿Pes-⊿Pga=⊿Pdi)を算出した。測定時の姿勢は立位姿勢とし呼吸様式は安静呼吸とした。安静呼気位(FRC)を基準に弾性帯を装着した。使用弾性帯は、張力の異なる二種類を用い(セラバンド:赤、シルバー)臍部を境界とし上腹部・下腹部に分け前記二種類の弾性帯を躯幹に装着し、換気諸量変化、換気効率の変化(⊿Vcw/⊿Pdi)、FRCの位置変化、各部位の換気量変化、胸部と腹部の変化を装着前後で比較検討した。【説明と同意】 被験者は、ヘルシンキ宣言に則り本研究の主旨・内容説明に了承の得た者とした。【結果】 (1)呼吸様式がより胸部優位に変化した。(2)換気効率((⊿V/⊿Pdi)は弾性帯装着部位が上腹部に比べ下腹部が良い。(3)弾性帯の強度の違いは、より胸部優位の呼吸へと変化させた。換気効率は、今回使用の弾性帯では弾性力が低いものが弾性力の高い弾性帯に比べ換気効率は良い結果であった。【考察】 上・下腹部への弾性帯の装着は両者ともに胸部優位の呼吸へと変化させたが上腹部への弾性帯の装着はzone of appositionでの胸部拡張への抵抗となるために換気量が低下する傾向にありこの事が換気効率の低下となった事が考えられた。腹部下部への弾性体の装着は腹部臓器の重力での吻側への臓器重量への拮抗する作用となり腹部の内圧を上昇させ結果zone of appositionでの運動変換を効率よく行え、また胸郭の拡張の妨げること無く効率がよいため換気効率が向上したものと考えられた。装着する弾性帯の強度は、今回の結果より強度が増せば呼吸様式変化は顕著となるが換気効率の面からみると低値となることが認められ換気効率を考える場合には至適強度の存在が示唆された。今回、躯幹に弾性帯を巻き呼吸に対する影響を検討した。換気効率、呼吸様式の変化等認められ臨床での使用の可能性も考えられる。しかしながらCOPD患者への応用には、個人の評価と状態に合わせる弾性帯の評価をどのような内容で行うか、どの部位に、どのような強度と弾性特性のものを使用するかなど多くの検討を必要とする。【理学療法への意義】 呼吸理学療法における腹部筋の強化は多く用いられるが、トレーニング効果の持続には継続が不可欠である。症例によっては呼吸困難が強くトレーニング施行そのものが困難な例もあり、本研究の弾性装具(代用筋)の併用によりADLの改善に寄与するものと思われる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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