理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
若年喫煙者の超低周波領域の交感神経系活動
―心拍変動パワースペクトル解析法を用いて―
井出 宏田平 一行
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p. Db1211

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抄録

【はじめに、目的】 自律神経活動や交感神経系活動は脂質代謝と密接に関連していることが指摘されている。例えば、健常成人の自律神経を薬理的に遮断すると安静時代謝が約300kcal/日低下することや健常閉経女性の総自律神経活動(交感神経+副交感神経)を心拍変動パワースペクトル解析法によって低値群と高値群に分類し比較した結果、低値群では体格指数、体脂肪率、血中中性脂肪が有意に高かったことが報告されている。さらに、近年、交感神経系の一つである超低周波領域、VLF(0.007~0.035Hz)活動は肥満者で低下していることが報告されている。一方、タバコに含まれるニコチンは動脈圧受容器や中枢神経に作用し、交感神経を賦活化させるといわれているが、喫煙者のVLF活動についての報告は少ない。そこで今回、喫煙者の安静時VLF活動は賦活化するという仮説のもとに喫煙者の自律神経活動、心拍数、体温、酸素摂取量(Vo2/kg)、呼吸商(RQ)を非喫煙者と比較、検討することを目的とした。【方法】 対象は非喫煙群9名、喫煙群9名の健常男性18名。非喫煙群と喫煙群の年齢は26.3±5.9歳、28.3±7.9歳、身長は168.7±4.5cm、172.9±7.2cm、体重は64.5±8.9kg、64.9±10.8kgであった。また、喫煙群の喫煙歴は9.1±7.0年、1日平均喫煙数は10.4±9.0本であった。被験者には測定前日より香辛料の強い食事、激しい運動などを避けるように指示し、実験当日、測定開始前8時間以上絶食(水分は許可)を依頼した。喫煙群はタバコによる急性効果の影響を極力なくすため測定開始前10時間以上の禁煙を行った。そして、呼吸数は15回/分に調整し、20分以上の安楽な安静座位を取ると同時に、スポーツ心拍計S801i(Polar社)にて心拍数を測定し、安静座位終了前5分間(安静期)のRR間隔の心拍変動を解析した。解析した心拍変動はMemCalc(諏訪トラスト社)を用いてVLF、LF(0.035~0.15Hz)、HF(0.15~0.5Hz)のパワースペクトル解析を行った。次に、安静期VLF+LF+HFを総自律神経活動(Total)を算出し、VLF/Total、LF/HF(交感神経系活動指標)、HF/Total(副交感神経活動指標)の比率を算出した。また、体温は連続測定型体温計ニプロCEサーモ(バイオエコーネット社)にて鼓膜温を測定し、酸素摂取量はVmax(バイアシスレスピラトリケア社)で測定した。解析方法は両群安静期の自律神経活動、心拍数、体温、Vo2/kg、RQについて対応のない t 検定をおこなった。統計的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、測定を行った大学、病院の倫理委員会の承認を得ると同時に、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容を説明し、署名によって同意を得た。【結果】 非喫煙者と比較して喫煙者はVLF/Total で高値を示した。LF/HF、HF/Total、心拍数、体温、VO2/kg、呼吸商は統計的有意差を示さなかった。【考察】 脂肪量変化の機序のひとつとして、視床下部―交感神経―ノルアドレナリン―β受容体の自律的エネルギー消費機構がある。また、肥満者の交感神経系VLF活動は様々な条件下で低下することから肥満者のVLF活動が自律的エネルギー調整機構の交感神経機能障害を反映している可能性を指摘している。今回、喫煙群と非喫煙群の安静期心拍数に統計的有意差がないにもかかわらず安静期VLF活動が特異的に賦活化していたことは、喫煙群の自律的エネルギー消費機構の賦活化を示唆するものである。また、先行研究においてもニコチンはマウスの交感神経中枢である視床下部腹内側核を活性化し、自律的エネルギー消費機構を亢進させることが指摘されている。しかし、今回安静期の喫煙群と非喫煙群の体温や基礎代謝指標であるVO2/kg 、RQの統計的有意差を示さなかった。このことはそれらの値が安静期の自律的エネルギー消費機構を反映するほどの大きな違いを表さない可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 今回の交感神経系VLF活動の特異的な賦活化は体重減少を生じる疾患と自律的エネルギー消費機構、交感神経系活動の関係を検討する一つの方法になる可能性がある。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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