抄録
【はじめに、目的】 前研究で開腹術後の後期高齢者の退院遅延要因として歩行獲得日数が長く、術前ALB値が低いことが考えられた。多くの医療機関で使用されている栄養指標のうち、Prognostic Nutritional Index(以下PNI){PNI=10×血清アルブミン値 (g/dl)+0.005×総リンパ球数(mm3)}は手術リスクを考える上で有用とされ、40未満は低栄養で合併症リスクが高いとされている。またgeriatric nutritional risk index(以下GNRI){GNRI=14.89x血清アルブミン値(g/dl)+41.7x(現状体重/理想体重)}は高齢者の栄養指標として有用され、82未満が重度栄養障害リスクとされている。これらの指標を用いた結果、当院で開腹術を行った後期高齢者の大半が低栄養であることが示された。そこで今回は開腹術を実施し低栄養を呈した後期高齢者を対象とし、退院遅延要因として各栄養指標を再検討すること、PNIやGNRIの客観的栄養指標を用いて術後在院日数と栄養状態の関係を検討することを目的とした仮説としては稲垣らやGibbsらの研究からも低栄養状態は退院遅延と関係があると考えた。【方法】 調査研究の後ろ向き調査で実施した。対象は2009年4月から2011年9月に当院外科に入院、開腹術を行い、理学療法介入をした後期高齢者37例(42例いたが、以下基準にて5例除外)。選定基準はPNI<40とし、低栄養を伴っている症例とし,除外基準は術前歩行困難者,死亡例とした。術後から退院まで要した日数が30日未満の群(順調群24例)と30日以上の群(遅延群13例)に分け、遅延群の栄養状態を検討するため、術前のBMI,GNRI,ALB値,PNIを比較した。統計処理についてはshapiro-Wilk検定にて正規性を確認し、独立T検定を用いた。また術後在院日数と各栄養指標について相関をみるためにPearson相関係数を用いた。危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の記述的研究は後方視的に行ったもので、十分に倫理的に配慮して行った。【結果】 順調群,遅延群の比較(以下の数値は順調群/遅延群の順)では、BMIは21.1±0.8/21.2±0.9でp=0.913、GNRIは82.8±2.0/78.7±3.3でp=0.262と有意差は無く、ALB値は3.0±0.1g/dl/2.6±0.2g/dlでp=0.070、PNIは30.2±1.0/26.3±1.8でp=0.057と有意な傾向がみられた。順調群と遅延群のALB値、PNIにおいて検定力は各々0.96、0.96であった。また術後在院日数とALB値との間に有意な負の相関(r=-0.51 p=0.01)を認め、PNIとの間にも有意な負の相関(r=-0.52 p=0.01)を認めた。術後合併症は順調群で8例(61%)、遅延群で4例(17%)にみられた。【考察】 当院の開腹術を行った後期高齢者は大半が低栄養を呈しているということが分かった。順調群、遅延群の比較において術前栄養指標で有意差がみられなかったのは対象が低栄養を呈している患者に限定したことが関係していると考えられる。術後在院日数とALB値、PNIは中等度の負の相関ではあったものの有意な相関があり、術前ALB値、PNIの重要性が示唆される。稲垣らもALB値が低いと術後在院日数が長かったことを報告しており、本研究は先行研究を支持する結果となっている。術後在院日数と術前ALB値、PNIは中等度の相関を示しており、当院において術前ALB値が2.8g/dl以上、PNIが28以上では、術後在院日数30日未満で退院が出来るという予後予測の指標になることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究から術前低栄養の患者にはNSTの介入の必要性が考えられ、そのスクリーニング指標として術前ALB値、PNIは使用できるのではないか。