抄録
【はじめに、目的】 血液透析(以下HD)患者は週3~4回のHD外来が必要である.そのため,一般的な特別養護老人ホーム(以下特養)では,HD患者の入居は受け入れられにくい.しかし,当施設は,人工透析センターが隣接していることもあり,HD患者の入居受け入れも行っている.近年, HD患者への運動は推奨されており,運動介入による身体機能低下の抑制や日常生活自立度の改善などHD患者にとって大きな恩恵があるといわれていることから,医療従事者はHD患者への運動療法を推奨する必要がある.ところが,特養では,理学療法士(以下PT)をはじめとするリハビリテーション(以下リハ)専門職の配置が義務化されていないことから,積極的なリハが実施されていないのが現状である.当施設もPTが1名配属されているが,約80名の入居者のリハを実施するにはマンパワー不足のため,評価が中心となり,十分なリハの実施は困難な状況であった.先行研究によると,特養における他職種介入によるリハの効果は報告されている(市原ら,2008).しかし,入居中のHD患者へ焦点を当てたリハ介入効果に関する報告は見当たらない.そこで本研究の目的は,施設入居中のHD患者に対して,PTがリハマネジメントを行い,他職種介入による運動療法の効果を検討することである.【方法】 対象は当施設に入居しているHD患者10名のうち,全身状態が安定しており,本研究の参加の同意が得られた6名(男性3例,女性3例,年齢80.2±4.5歳,HD期間36.7±8.6ヶ月,入居期間31.8±7.7ヶ月)である.除外基準は下肢切断および中枢神経疾患により運動麻痺を生じている症例とした.介入方法は,PTが評価,他職種への運動指導を行い,介護職を主とした他職種介入による運動療法を行った.運動療法の種類は,歩行訓練とセラチューブによるレジスタントトレーニングとした.頻度は週4回,運動強度は歩行訓練を自覚的運動強度(RPE)11~13,レジスタンストレーニングを10~15回反復できる強さと設定し,1セット当り10回~15回,1日1~3セットとし,運動時間は1回40分以上を非HD日に実施した.測定項目として下肢筋力(30秒立ち座りテスト),上肢筋力(握力),バランス能力(functional reach),歩行機能(10m最大歩行時間),運動耐容能(6分間歩行距離),ADL(FIM)の評価を実施した.介入効果の変化を追うために,介入時より12週間前までを第1点,介入時を第2点,介入時より12週間後までを第3点とし,評価を実施した. 第1点から第2点までを未介入期,第2点から第3点を介入期とし,未介入期,介入期の各対象者の測定値の変化率を算出し,それらの平均値を平均変化率として%で示し,比較検討した.算出方法は,未介入期=(第2点-第1点)/第1点・100,介入期=(第3点-第2点)/第2点・100とした.【倫理的配慮、説明と同意】 発表にあたり,対象者及び家人には本研究の趣旨,個人情報の保護,結果の公表に関し,文章および口頭にて説明をし,同意を得て実施した.【結果】 介入期間中の脱落者はいなかった.介入前後の平均変化率を未介入期/介入期と表記する.下肢筋力は-2.8/64.3%,上肢筋力は-2.5/21.2%,バランス能力は-6.0/19.0%,歩行機能は4.8/-22.7%,運動耐容能は-12.5/79.3%,ADLは-0.2/0.3%であった.【考察】 今回の結果より,他職種介入による運動療法により身体機能の向上の変化が認められた.透析患者における運動耐容能低下は長期生存率の規定因子であると報告されており(Sietsema, 2004),今回の介入による運動耐容能の向上は対象者に貢献出来たと考えられる.このことから,他職種による介入を実施することで,リハ専門職のマンパワー不足が解消でき,身体機能向上の効果があることが示唆された.しかし, 本研究の限界として,症例数が少ないことと,運動処方としてRPEのみを指標としている点が挙げられる.今後は症例数を重ね,呼気ガス分析装置, 筋力測定装置などを用いた評価が実施していくともに,長期の介入効果の検討を実施していく必要があると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 特養などの施設でリハ専門職の十分な配置が見込めなくても,PTが医療従事者として予後も含めた運動を推奨し,他職種の協力のもと,運動療法を実施することで,透析患者の身体機能改善に貢献できることが示唆された.