理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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他動的下肢体幹運動が腸管運動に及ぼす影響
─心臓外科手術後症例に対する臨床応用の可能性─
森沢 知之高橋 哲也笹沼 直樹眞渕 敏西 信一
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キーワード: 腸管運動, 運動療法, 臥床
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p. Dd0842

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抄録
【はじめに、目的】 心臓外科手術後は術中麻酔薬の影響、低心拍出量状態、ベッド上不活動などの要因により、腸管運動が低下しやすい。腸管運動の低下は腹部不快感、悪心などの消化器症状を招くばかりではなく、全身に悪影響を及ぼし、理学療法を実施する上でも問題となることが多い。そのため理学療法士も腸管運動を正しく理解し、促通に対するアプローチを模索することも必要であると考える。我々は以前、健常成人を対象にベッド上での他動的下肢体幹運動が腸管運動を促通することを報告した。今回、心臓外科手術後患者を対象に、ベッド上での他動的下肢体幹運動が心臓外科手術後患者の腸管運動に与える影響を評価し、その臨床応用の可能性について検討した。【方法】 対象は兵庫医科大学病院心臓血管外科にて手術が行われた2例。いずれも手術後2日目以内、ICU滞在中で経口摂取が開始になる前で、人工呼吸器から離脱後、理学療法を開始する直前のタイミングに実施した。症例1:60歳代、女性。大動脈弁狭窄症にて大動脈弁置換術(手術時間:4時間30分 麻酔時間:5時間59分)施行。手術翌日に抜管、同日より理学療法開始。症例2:70歳代、女性。大動脈弁閉鎖不全症、胸部大動脈瘤にて全弓部大動脈人工血管置換術(手術時間:8時間21分 麻酔時間:9時間59分)施行。手術後2日目に抜管、同日より理学療法開始。 腸管運動の活動を評価する方法として腸音を測定・解析した。富士医療器製データ保存用聴診器(MEMORY STETHOSCOPE F-812)を使用し、臍部と右上前腸骨棘を結ぶ線の中点上(解剖学的に回盲部に相当し、腸音が最も聴取しやすい場所)で腸音を測定した。得られた腸音はアンプ、ADINSTRUMENTS社製データ収録・解析システム(Power Lab)を介し、PC上に取り込み、腸音の主な周波数域である100~400Hzで周波数解析を行った。安静仰臥位にて5分間腸音の測定を行い、他動的下肢体幹運動を10分間実施後、同様に腸音を5分間測定し、安静時および他動的下肢体幹運動後の腸音の積分値を比較した。他動的下肢体幹運動は他動的に股・膝関節の最大屈曲角度まで5秒間で屈曲し、同様に5秒間で最大伸展角度まで伸展させることとし、一側につき10回ずつ、両下肢に実施した。次に両膝・股関節を屈曲し膝立ち臥位とし、体幹を最大まで回旋するように両膝を最終可動域まで倒し、5秒間保持し、左右繰り返した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の実施にあたっては対象者に書面及び口頭にて十分に説明を行い、本人の了承を得て行った。なお本研究は兵庫医科大学病院倫理委員会の承認を得ている(平成23年度-第980号)。【結果】 症例1:実施前の安静5分間の総和は2.21mV/secに対し、他動的下肢体幹運動実施後の安静5分間は3.51mV/secで腸音は増加した。また、実施前は約2mV/secを超える大きな動きが1回、他動的下肢体幹運動実施後には5回観察された。症例2:実施前の安静5分間の総和は2.06mV/secに対し、他動的下肢体幹後の安静5分間は2.05mV/secで腸音に変化はなかった。他動的下肢体幹実施直後をpeakに90秒間は腸音の明らかな増加が観察されたが、それ以降は徐々に減少した。【考察】 心臓外科手術後2症例に他動的下肢体幹を実施した結果、症例1では実施後に腸管運動の増加が認められた。腸管運動の促通には腹圧を高めること、また腸管に対し伸張作用が加わることが必要であり、他動的下肢体幹運動により、腹圧上昇の作用や腸管に対して伸張作用が加わったものと考えられた。症例2では腸音の増加は認められないものの、実施直後から90秒間は明らかに腸音が増加した。以前、健常人を対象とした先行研究においても実施後20秒間は有意に増加し、その後も安静時に比べて腸音の増加した状態が約90秒間続いたことから、先行研究同様に即時効果があったものと考えられた。今回は2症例の検討であるが、他動的下肢体幹運動が少なからず腸管運動に影響しているものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 これまで、腸管運動の低下に対して温熱療法、マッサージ、低周波刺激などが広く用いられてきたがその効果は明確ではなかった。ICUの理学療法が進む中、理学療法士としても腸管運動の低下に対するアプローチが必要不可欠と思われる。これまでの手法以外にもベッド上で簡便かつ効果的に腸管運動を促通できる理学療法が明らかになれば、今後ICUでの理学療法士の職域拡大にも寄与できるものと考えられ、症例を増やして更なる検討が必要である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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