理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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高齢者の歩行自立度がADLに与える影響
熊谷 謙一山内 康太島添 裕史鈴木 裕也
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キーワード: 高齢者, 歩行自立度, ADL
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p. Dd0846

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抄録

【はじめに、目的】 身体機能の低下は加齢変化の一つであり、続発する問題としてMobility limitation があげられる。また、低下肢機能はADL制限の独立予測因子であり、下肢機能低下を原因とした移動能力の低下に伴い、ADLの制限が進行すると考えられる。ADL自立度の低下により、生命予後、健康寿命、社会資源利用が増加するため、ADLの自立は重要である。また、歩行機能は臨床上のアウトカムに使用されることが多く、特に歩行自立の可否はADLに直接影響を与えると考えられる。しかし、これまでに歩行自立度の重要性は示されていない。本研究の仮説として高齢者における(1) Mobility limitationはADLの自立度に影響を与える、(2)歩行自立の可否でADL制限の検出が可能である、とした。そこで本研究の目的は、Mobility limitationの指標として歩行自立の可否を用いて(1)ADLの比較を行うこと、(2)他のADL制限の検出が可能かどうかを検討することとした。【方法】 2010年4月1日から2011年3月31日にかけて理学療法処方のあった当院入院患者を対象とした。取込基準は1)60歳以上、2)退院時の転帰が自宅もしくは施設退院であること、3)疾患由来の意識レベル、摂食・嚥下機能、上肢機能への障害がないこととし、除外基準は転院もしくは死亡退院とした。評価項目は退院時のBarthel Indexを用い、10項目を自立・介助の2変数で使用した。患者特性の比較には、2標本t検定及びχ2検定を用いた。歩行自立・介助と、他のBarthel Index項目における自立・介助の一致度の検討に関しては、感度、特異度及び Kappa 係数を算出した。データはmean±SD,No.(%)で示した。有意水準は5%未満とし、統計ソフトは SPSS for windows version18.0 を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 個人を特定できないよう、データの集計は患者名をコード化した。【結果】 基準を満たした者は572例(歩行自立、n=447,歩行介助、n=125)であった。歩行自立群と介助群での群間比較の結果、男性177例(39.6%),76例(60.8%)、身長1.54±0.1cm,1.60±0.1cm、体重52.8±10.3kg, 55.5±12.3kg、Barthel Index合計98.8±5.8,57.1±22.6、各項目介助は食事0例(0%),31例(24.8%)、移乗11例(2.5%),101例(80.8%)、整容1例(0.2%),63例(50.4%)、トイレ2例(0.4%),85例(68.0%)、入浴24例(5.4%),113例(90.4%)、階段24例(5.4%)、121例(96.8%)、更衣13例(2.9%),90例(72.0%)、排便3例(0.7%),47例(37.6%)、排尿1例(0.2%),51例(40.8%)、自宅退院443例(99.1%) ,87(69.6%)において両群間で有意差を認めた(p<0.01)。疾患に関しては両群間で有意差を認めなかった。歩行自立・介助を指標にした際の、歩行以外の各項目自立・介助の判別に関しての結果は、食事(感度100%,特異度83%,κ=0.34)、移乗(感度90%,特異度95%,κ=0.81)、整容(感度98%,特異度88%,κ=0.61)、トイレ(感度98%,特異度92%,κ=0.75)、入浴(感度82%,特異度97%,κ=0.82)、階段(感度83%,特異度99%,κ=0.86)、更衣(感度87%,特異度93%,κ=0.73)、排便(感度94%,特異度85%,κ=0.47)、排尿(感度98%,特異度86%,κ=0.51)であり、全ての項目に関して有意差を認めた(p<0.01)。【考察】 歩行自立群でADL全項目における自立度が高く、歩行機能を維持・向上させるような介入がADLを維持・向上させる可能性を示唆しているものと考えられた。移乗・入浴・階段は、歩行自立度との高い一致度を示し、歩行自立度の低下と、移乗・入浴・階段自立度の低下が同時期に生じる可能性を示唆していると考えられた。食事・整容・トイレ・排便・排尿に関しては高い感度を示し、食事・整容・トイレ・排便・排尿自立度の低下よりも、歩行自立度低下が先行する可能性を示唆しているものと考えられた。また、評価指標に退院時のデータを用いたため、入院歴のある地域在住高齢者の抽出が可能で、healthy volunteer viasを除外できたと考えられる。地域在住高齢者のADL評価は自己評価尺度を用いた検討が多いが、本研究においては客観的なデータを利用可能であった。本研究の限界としては、筋力、運動耐容能、歩行速度等の身体機能の評価を行っていないこと。歩行自立度がどのような因子の影響を受けているか不明であることがあげられる。本研究の結論として、1)ADLの観点から歩行自立度の重要性が示され、2) 加齢によるADL制限は、歩行・移乗・階段・入浴等の下肢機能の障害が先行し、その後に食事・整容・トイレ・排便・排尿自立度が低下する可能性が示唆された。3) 歩行自立度がADL自立度の判別に妥当性の高い指標であった。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、ADLの観点から歩行自立度の重要性及び、screening toolとしての歩行自立度の有用性を示した。また、ADL自立度向上のために下肢運動介入の効果が得られる可能性を示唆した。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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