理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
間質性肺炎患者の下肢筋力に関する検討
─呼吸困難感,呼吸機能,運動耐容能と下肢筋力の関係─
武市 梨絵横山 有里横山 仁志笠原 酉介大森 圭貢渡邉 陽介駒瀬 裕子
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p. De0030

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抄録

【はじめに、目的】 呼吸器疾患患者は,呼吸機能の低下により呼吸困難感や低酸素血症が出現する.それらは,身体活動を制限し,下肢筋力を低下させ,ADL障害を引き起こす.慢性閉塞性肺疾患患者においては,下肢筋力に関する報告は多く,下肢筋力トレーニングが強く推奨されている.しかし,間質性肺炎患者においては運動療法を中心とした呼吸リハビリテーションの介入が注目されているものの,下肢筋力に関する検討は十分になされていない.そこで本研究は,間質性肺炎患者の下肢筋力と呼吸困難感,呼吸機能,運動耐容能との関連について明らかにすることを目的に検討を行った.【方法】 対象は2008年4月から2011年3月の期間に評価可能であった安定期の間質性肺炎患者107例(平均年齢71.3±9.3歳,平均身長160.5±9.2cm,平均体重57.4±11.7kg,男性74例,女性33例)である.除外基準は明らかな運動器・中枢神経疾患を有する症例とした.これらを対象に,下肢筋力を測定し,下肢筋力と呼吸困難感,呼吸機能,運動耐容能の関係について検討した.調査・測定項目は,日常生活における呼吸困難感の指標はMedical Research Council(以下,MRC)息切れスケール,呼吸機能は肺容量をみる%VC,肺拡散能をみる%DLcoを代表値とした.運動耐容能の指標として6分間歩行距離,下肢筋力指標として等尺性膝伸展筋力を測定した.等尺性膝伸展筋力は,アニマ社製μTas-MF01を用い,その測定値を体重で除した値を採用した.そして,等尺性膝伸展筋力と各指標との関係をPearsonの積率相関係数,Spearmanの順位相関係数,一元配置分散分析,Bonferroni検定を用いて検討した.なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とした.【倫理的配慮、説明と同意】 倫理的配慮として聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院臨床試験審査委員会の承認を得た(第179号).すべての対象者に本研究の評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意の得られたものみを対象とした.【結果】 等尺性膝伸展筋力はMRC息切れスケール,%VC,%DLco,6分間歩行距離の全ての指標と有意な相関関係にあり,その相関係数は,順に-0.49,0.22,0.31,0.48であった(p<0.05).次に,等尺性膝伸展筋力と中程度の相関を認めたMRC息切れスケール,6分間歩行距離をそれぞれ4群,5群に分類し,各等尺性膝伸展筋力値について検討を加えた.その結果,MRC息切れスケールの各群における等尺性膝伸展筋力はGrade0-1群(n=36),2群(n=30),3群(n=27),4-5群(n=14)の順に,0.59±0.13,0.50±0.13,0.45±0.13,0.41±0.12kgf/kgであり(F=9.5,p<0.05),0-1群とその他のすべての群間において有意差を認めた(p<0.05).6分間歩行距離は,400m以上(n=37),301-400m(n=40),201-300m(n=9),101-200m(n=12),100m以下(n=9)に分類し,各群の等尺性膝伸展筋力は順に,0.58±0.11,0.50±0.12,0.48±0.14,0.41±0.15,0.39±0.10kgf/kgであり(F=7.1,p<0.05),400m以上と101-200m,100m以下の2群間に有意な差を認めた.【考察】 間質性肺炎患者における等尺性膝伸展筋力と呼吸困難感,呼吸機能,運動耐容能の間には有意な相関関係を認め,間質性肺炎患者の下肢筋力低下と各指標の間に関連性があるものと考えられた.これらのことから間質性肺炎患者における下肢筋力低下は,呼吸機能のみでなく,日常生活における呼吸困難感や運動耐容能低下に関連している可能性が考えられた.さらに,MRC息切れスケールがGrade3を,6分間歩行距離が300mを下回ると,移動動作の障害が生じはじめる下肢筋力水準である0.50kgf/kgを下回る症例が多く存在していた.したがって,これらの指標を下回る間質性肺炎患者は,ADLを障害する水準まで下肢筋力が低下している可能性が高いことが考えられた.以上のことから間質性肺炎患者は,病態の進行に加え,日常生活における息切れ感の増悪,身体活動や運動能力低下に伴って筋力低下は進行し,それらの進行の程度によってはADL能力低下を引き起こす可能性があり,下肢筋力トレーニングの必要性が高いと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 間質性肺炎患者における下肢筋力低下に関連する要因を明らかにする研究であり,呼吸リハビリテーションの介入,運動処方を検討する際の一助となる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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