理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
周波数解析を用いた誤嚥の傾向分析
─超音波画像診断装置を併用した嚥下音の周波数解析─
内田 学加藤 宗規
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p. De0031

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抄録

【はじめに、目的】 昨今の高齢社会を反映し、高齢者の誤嚥性肺炎患者が急増している。厚生労働省の統計によると、肺炎による死亡率は高齢者で急激に増加し、その中でも誤嚥性肺炎である割合も高齢者で高く70歳以上の肺炎では70〜90%が誤嚥性肺炎であると報告された。基礎疾患のない健常高齢者の死因について、佐々木らは33%が誤嚥性肺炎であると報告した。日常診療の中における摂食・嚥下機能の検査では、VFやVEは不可欠な位置づけとなっている。これらは、設置するためには環境整備と専門職員の配置などが必要であるが、これらの検査が実施できない医療機関、もしくは介護保険領域の施設や在宅で生活する摂食・嚥下機能障害の患者に対してもVFやVEと同様の検査結果が出せる手法として反復唾液嚥下テストや改訂水飲み試験などが従来より開発されてき。これらは間接的な手法であり嚥下状態を視覚的に捉え難い。そこで、多くのスクリーニングなどの中から我々は頚胸部聴診法で得られる音声解析を発展させた嚥下音に対する周波数解析を行い、超音波画像診断装置の視覚情報と合致させた検討を行うことでVF、VEの代用となる誤嚥の測定手法を開発することを本研究の目的とした。【方法】 対象は、誤嚥性肺炎の既往があり日常的な摂食で誤嚥が生じ何らかの介入が必要な高齢者4名と、摂食嚥下機能に問題のない高齢者4名、合計8名とした。平均年齢84.3±3.1歳、平均身長154.1±3.4cm、平均体重42.61±3.7kgであった。方法は摂食時に生じる嚥下音と咽頭運動の関係性を明確にするために超音波画像診断装置にて咽頭運動を撮影した。撮影対象には、5mlの試料をシリンジにて計量し、摂取させた後は口腔内に保持させ1回の嚥下で飲水することを条件とし、嚥下のタイミングは自由とした。合計15回の嚥下を測定した。測定姿勢は安楽な座位姿勢とし、頭頸部は前額面、矢状面での中間位を保持させた。超音波画像診断と同時に嚥下音を録音することで視覚的に咽頭運動を確認しながら嚥下で発生した音声範囲を特定した。嚥下音の計測には、Cardio Microphone (ADINSTRUMENTS社製 MLT201)を輪状軟骨直下気管外側(非利き手側)に装着し、Powerlab( ML142GP)のアンプを介して音声データをlabChartに取り込み音声電位変化を記録した。また、超音波画像診断で得られた映像を、WEBカメラにて同時にモニター上で録画し、LabchartのVideo Captureを用いて音声と超音波画像診断装置の画像を同期させた。得られた嚥下音を、超音波画像診断装置で咽頭運動の開始点から終了点を確認し、嚥下に関与している部分の音声のみを抽出したのちテキストファイルに変換し、Kyplot5.0 を用いてサンプリング周波数を1/1000としてSpectral Analysisを用いて周波数解析を行った。統計的手法として、両群の平均周波数、嚥下時間、変動係数を算出し比較検討した。また、呼吸機能と誤嚥の関係を確認する為に、測定中にピエゾ呼吸ピックアップ(ADINSTRUMENTS社製 MLT1132)を同期させ換気リズムをモニタリングし、嚥下発生の吸気相と呼気相における発生割合を視覚的に確認し百分率で評価した。【倫理的配慮、説明と同意】 倫理的配慮として、健康科学大学倫理委員会の承認を得た。【結果】 嚥下時間は、誤嚥群、非誤嚥群の順に1.23±0.3秒、1.01±0.4秒であり、両群に差は認められなかった。平均周波数は、誤嚥群、非誤嚥群の順に301.93±71Hz、272.01±30Hzで誤嚥群が有意に高値を示した。嚥下が発生している際の換気リズムは、吸気相での嚥下発生は誤嚥群で64%、非誤嚥群で4%であった。変動係数は誤嚥群で0.23、非誤嚥で0.11であった。【考察】 結果より、誤嚥が発生している状態の平均周波数帯域は高値を示している事から速度成分として早い状態であることが明確になった。嚥下に要した時間は誤嚥群の方で延長していることから、嚥下に要す咽頭運動の円滑性に問題が生じているものと推察される。また、喉頭や嚥下関連筋の短縮などによる直径の狭小化が生じ、速度成分として増加が観られるものと推察される。誤嚥群は64%が吸気相で嚥下を起こしている事から、口腔内の感覚器官やCPGsなどの調節を行う換気切り替え中枢の問題も考えられた。また、変動係数の結果より、誤嚥群の不安定な嚥下状態も口腔機能の不安定性を示す重要な要素になるものと推察された。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果から、誤嚥を呈する患者の周波数帯域特性や換気リズムにおける特徴を明確にできた。直接的な誤嚥の評価が実施困難な施設においても簡便にスクリーニングを行うことが可能であり、摂食時のポジショニングや食形態の変更など誤嚥を予防するための介入が可能になるものと考えられた。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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