理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
特定健診対象者において心血管リスクファクター数は転倒リスク指標と関連する
松本 大輔瓜谷 大輔浅井 剛土井 剛彦三栖 翔吾堤本 広大浅野 恭代吉崎 京子西田 由起子上田 依子
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p. Ea0338

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抄録
【目的】 2008年度よりメタボリックシンドローム(MS)の予防・改善のため,40歳から74歳までを対象とした特定健診・保健指導が始まった.運動指導の際への注意事項として中年層以降は運動器疾患,転倒,認知症等を有する割合が高まると言われている.我々はメタボリックシンドローム患者で有意に転倒が多いことは示せなかったが,特定健診対象者の約30%に転倒経験があることを報告した.そこで本研究は,特定健診対象者において転倒リスクをより詳細に把握するために3軸加速度計を用いた歩行解析によって算出される転倒リスク指標と心血管リスクファクター数と関連性があるかを検討することを目的とした.【方法】 奈良県内の特定健診対象者で,体力測定会に参加し,データの不備のない女性13名(平均年齢66.5±4.4歳)を対象とした.評価項目は心血管リスクファクターについて,腹囲,血圧測定,血液検査(HbA1c,TG,HDL)を行い,メタボリックシンドロームの診断基準に従い,腹部肥満,血圧高値,高血糖,脂質異常のリスクファクター数を用いた.また,動的バランス検査としてTimed up & goを行った.3軸加速度センサ(サンプリング周波数: 200Hz)を第3腰椎棘突起部付近および踵部に装着した状態で歩行計測を行い、得られた加速度データより、踵接地を同定し歩行周期時間の変動性(stride time variability: STV)および調和性の指標(harmonic ratio: HR)を算出し,た.STVは歩行のばらつきを示し、高値であるほどばらつきが大きい.HRの値は、高ければ歩行の調和性の高い歩行パターンを表す.これを快適歩行(ST)および二重課題歩行(DT)の二条件で計測した.DT条件では、100から数字の逆唱を行うBackward counting課題を用いた.以上の項目から転倒リスク指標としてDT条件下でのSTV,各方向のHRを用いた.これらを転倒リスク指標としまた,運動習慣,過去半年間での転倒の有無についてのアンケート調査を行った,運動習慣はTranstheoretical model(TTM)を用い,維持期を運動定着とした.統計解析はリスクファクターと各項目との関連性には,Spearmanの相関係数を用い,さらに,関連性のあった転倒リスク指標を従属変数,年齢,歩行速度,運動習慣,転倒の有無,リスクファクター数を説明変数としてStepwise法を用いた重回帰分析を行った.有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者には事前に研究の主旨について説明した後,書面への署名によって同意を得た.本研究は畿央大学,神戸学院大学研究倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 リスクファクター数と有意な関連性があった項目として,年齢(ρ=0.77,p<0.01),DTSTV(ρ=0.77,p<0.01),DTHR垂直方向(ρ=-0.74,p<0.01)であった.DTSTVにおける重回帰分析では,Stepwise法にて年齢のみが選択されたが,DTHR垂直方向においてリスクファクター数(β=-0.698,調整済みR2=0.44,p<0.01)のみ有意な関連性が認められた.【考察】 今回の結果から,特定健診対象の中高年女性において,転倒リスク指標と心血管リスクファクター数に関連性があることが明らかとなった.一般的なバランス評価では検出されないが,歩行解析等の詳細な評価を行うことによって,転倒リスクが把握できる可能性があると考えられる.メタボリックシンドローム患者に対する運動指導を行う際にも,転倒リスクを考慮し,対象者に合わせ運動定着に向けた安全かつ効果的な運動指導が重要である.本研究の限界として,症例数が少ないことと横断的な調査であるため,今後症例数を増やし,追跡調査を行っていく予定である. 【理学療法学研究としての意義】 特定健診対象の女性において,本研究の結果がMS予防だけでなく,転倒予防も含めた包括的な予防のための運動・生活指導の方法の提案につながると考えられる.医学的な基盤を持ち身体機能評価・運動指導の専門家である理学療法士が予防の分野へ介入する意義が示された.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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