抄録
【はじめに、目的】 本邦における高齢者人口は急速に増加しており、平成23年度の総務省による推計では、総人口における65歳以上の高齢者の占める割合は23.3%とされる。今後も高齢者人口が増増加し続けることが確実視され、高齢者の医療費ならびに介護費用の増加を抑制するための介護予防の推進が社会的課題となっている。高齢者の介護予防は高齢者における生活機能の維持が主眼であり、その効果的な介入方策は高齢者における生活機能の予備能を明確にする必要がある。しかしながら、これまで高齢者の生活機能を定量的に評価できる指標はなかった。そこで我々は高齢者における生活機能の予備能を評価する指標として、Performance Measure for Activities of daily living-10 (PMADL-10)を開発した。PMADL-10とは10項目の日常生活動作における困難感を、自記式の質問紙によって評価するものである。そこで本研究は、地域在住健常高齢者を対象に、PMADL-10を指標とする日常生活の活動制限と、身体機能、精神機能、栄養状態、ならびに身体活動量などの関連性を検討することを目的とした。【方法】 本研究では、2010年に名古屋大学医学部保健学科山田研究室にて実施した高齢者フィットネス健診に参加した60歳以上の地域在住高齢者144名(男性39名、平均年齢74.2歳)を対象とした。健診では身体機能(身長、体重、Body Mass Index:BMI、上腕周囲径、下腿周囲径、握力、膝関節等尺性伸展筋力、10m最大歩行速度、最大一歩幅、片脚立位時間)、栄養状態(Mini Nutrition Assessment:MNA)、認知機能(Mini Mental State Exam:MMSE)、抑うつ症状(Hospital Anxiety and Depression Score:HADS)、身体活動量(歩数、活動強度別活動時間)を測定した。また、同時にPMADL-10を用いて日常生活における活動制限を聴取した。膝関節等尺性伸展筋力の測定にはハンドヘルドダイナモメータμTasF-1(ANIMA)を使用し、膝関節90°屈曲位における等尺性筋収縮を測定した。身体活動量の測定にはライフコーダEX(スズケン)を用い1週間の日常生活活動量を記録した。ライフコーダEXによって得られた一週間の歩数および各強度別活動時間は一日の平均値として算出した。統計解析は、偏相関にて年齢を調整後、PMADL-10と関連が認められる身体機能、認知機能、身体活動量を調べた後、関連の認められた評価指標を重回帰分析に投入し、PMADL-10の影響因子を探索した。本研究の統計学的分析にはSPSS12.0を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は名古屋大学医学部生命倫理委員会保健学部会の承認を得た(承認番号:9-513)。また、全ての対象者には健診実施前に紙面および口頭で本研究の目的と内容を十分に説明し、同意を得た。【結果】 年齢調整にてPMADL-10と関連が認められたものは、BMI(r=0.18, p=0.02)、MMSE(r=-0.22, p=0.007)、最大一歩幅(r=-0.33, p<0.001)、10m最大歩行速度(r=-0.27, p<0.001)、握力(r=-0.23, p=0.005)、等尺性膝関節伸展筋力(r=-0.21, p=0.01)、MNA(r=-0.16, p=0.04)、歩数(r=-0.28, p<0.001)、中等強度活動時間(r=-0.28, p<0.001)、HADs-D(r=0.42 , p<0.001)であった。これらの因子を重回帰分析に投入したところ、HADS-D(β=0.42)、握力(β=-0.24)、中等強度活動時間(β=-0.19)、歩数(β=-0.16)、が最終的に抽出された。【考察】 本研究において高齢者におけるPMADL-10と関連が見られたものは、HADS-D、歩数、握力、中等強度活動時間であった。全身筋力を反映するといわれる握力などの身体能力の指標がPMADL-10と関連が認められた一方で、抑うつの指標であるHADS-Dや日常生活活動である歩数や中等強度活動時間との関連も明らかとなった。このことは高齢者の生活機能の維持には、身体能力だけでなく精神機能や日常生活における一定強度以上の身体活動を維持する重要性を示している。【理学療法学研究としての意義】 社会の高齢化は今や先進諸国の主要関心事となっており、健康高齢者における生活機能低下を予防する重要性が増すものと思われる。理学療法における介護予防分野においては、既に取り組みがなされているが、本研究結果はPMADL-10を用いた活動制限の評価が、健常高齢者における理学療法介入標的を同定することを示唆している。