抄録
【はじめに】 近年、欧米では脳卒中患者の在宅復帰に関して、早期退院後の家庭内リハビリテーション支援システムであるEarly supported discharge (ESD)が、在院期間の短縮、死亡率の低下、自宅退院率の増加、長期的なADLとQOLの改善に有効であることが報告され、日本の脳卒中ガイドライン(2009)でも行うことが強く推奨されている。また、回復期リハビリテーション病棟では、専門職の手厚い人員配置により入院時の重症者比率と、在宅復帰率を高めることが求められており、重症者を含めた在宅復帰支援の在り方が問われている。このため、当院ではESDを参考に回復期病棟業務と訪問リハビリ業務を兼務するMobile Rehabilitation Team(以下Mobileチーム)を2008年より配置している。Mobileチームは、切れ目のないリハビリテーションサービスを提供することにより、退院後の環境変化に伴う生活機能の低下を予防することを目的とし活動を行っている。またこれに加え、入院中から把握している情報を他の在宅支援事業所と円滑に共有することで、入院中に獲得された機能を退院後の生活に生かせるように積極的に支援している。昨年度の全国理学療法学術大会にて、退院直後の利用者の生活機能低下を予防できていることを報告した。今回、サービス提供者側の利得を探ることを目的に、Mobile 業務を経験したスタッフ群と未経験群の2群の職務満足感ついて比較検討を行い、加えて業務内容についてのアンケート調査を行った。【方法】 対象は当法人リハビリテーション部スタッフ74名に対し、アンケート用紙を配布。回答のあったスタッフ48名のうちデータに欠損のない46名(男性:28名、女性:18名、平均年齢:27.8±3.25歳)を分析対象とした。これらをMobileチーム経験群(以下Mobile群)、未経験群に分け、帰属(年齢・性別・経験年数・職種)、職務満足度(Stamps尾崎翻訳尺度を使用:全体的満足感を加え一部改変)、また、Mobile群に対して、Mobile業務ついてアンケート(無記名自由記載)を行った。統計分析には統計ソフト:SPSS ver.11.0Jを使用し、Mann-WhitneyのU検定を行った。それぞれの検定における有意水準は、P<0.05とした。【説明と同意】 アンケートの配布に際し、協力者に学術用途のみに使用する旨を伝え、同意を得たのちに実施した。【結果】 帰属について、年齢ではMobile群(N=13):30.08±5.82、未経験群(N=33):30.42±7.13、経験年数はMobile群:5.62±2.5、未経験群:6.42±4.62となり、それぞれ年齢、経験年数ともに有意差は見られなかった。職務満足度評価については、全体的に有意差は見られないもののMobile群にて高い傾向がみられ、合計の得点についてもP=0.076と同様の結果であった。また、全体的に見て今の仕事に満足しているかの全体的満足度はMobile群でP=0.013とMobile群で有意に高い結果が得られた。Mobile業務についてのアンケートでは、業務により「在宅での生活状態、介護保険制度などがより詳しく理解できることにより、入院中からの在宅生活をイメージしてアプローチするようになった」、「入院中から信頼感を築けていることで、訪問も抵抗無く実施でき、本人家族にも大変喜んでいただけた」とのプラス意見がある反面、「業務負担の増加」や「他職種・院外への周知が徹底できていない」などのマイナス面も聞かれた。【考察】 今回、Mobileアプローチによりサービス提供者側の利得として、提供者の職務満足が高まる傾向が示された。この理由として、担当患者の訪問リハサービスを、在宅で直接提供することで、入院中から退院後の生活をより具体的にイメージしてアプローチできるようになることが考えられ、QOLも含めたアプローチも可能となることが、利用者の満足度を高め、このことがスタッフの職務満足に関わることが示唆された。また、スタッフの中には連携を模索する能動的なかかわりを通じ、他職種・家族とのかかわりを重要視する傾向が見られていた。【理学療法学研究としての意義】 Mobileアプローチを利用した多くの利用者からは、入院中のセラピストが退院後に在宅リハを提供することで、安心して退院できるといった意見が多かったほか、本研究によりサービス提供者側にも職務満足感が高まることが示され、利用者、サービス提供者ともにWin-Winの関係にあることが示された。今後、MobileアプローチによりMobileスタッフからリハ結果のフィードバックを受けることで、回復期病棟全体の質の向上を計り、早期在宅復帰につなげることで、利用者・リハサービス提供側・病院・保険者がそれぞれWin-Winとなるようなシステム構築が可能になるという意味で理学療法学研究としての意義は高いと考える。