抄録
【目的】 当院では,各患者の退院後の生活を想定した目標を設定し,適宜カンファレンスを行い検討・修正している。この目標を関連職種と共有し,自宅退院を目指したリハビリテーションを積極的に行っている。その結果,自宅退院率は約85%の高値に結びついている。しかし,自宅退院後は生活状況を十分に把握することができておらず,自宅退院までの関わりで終了しているのが現状である。そこで,入院中に獲得したADLが在宅生活においてどのように変化しているのか,またそれがどのような因子によって影響を受けるのかを調査・分析したので報告する。【方法】 対象は,平成23年3月~7月までの期間に当院回復期リハビリテーション病棟から自宅退院された患者36名とし,郵送によるアンケート調査を行った。アンケートの内容はBarthel Index(以下,BI)を用いて,在宅時のADL状況を本人もしくはご家族に記入を依頼した。また,カルテから退院時のBI,年齢,性別,疾患,退院日を調査した。BIは基本動作とセルフケアの項目に分類した。基本動作の項目は,移乗・歩行・階段(以下,BI基本),セルフケアの項目は食事・整容・入浴・トイレ・更衣・排便自制・排尿自制(以下,BIセルフ)とした。また,退院時のBI点数から在宅時のBI点数の差をそれぞれのBI変化値とした。BI変化値は,BI基本を35点以上の自立もしくは部分介助群と30点以下の要介助群に,BIセルフを55点以上の自立もしくは部分介助群と50点以下の要介助群の2群に分類した。さらに,退院時より在宅時のBI点数が維持もしくは向上しているものを維持・向上群,退院時より在宅時のBI点数が低下しているものを低下群に分類した。在宅生活期間は,調査日より自宅退院日を引いた値を算出した。分析は,BI基本変化値,BIセルフ変化値と年齢,性別,疾患との関係,およびBI基本点数,BIセルフ点数とBI変化値を分類ごとに比較した。さらにBI変化値と在宅生活期間の関係を求め比較検討した。統計処理には,各群の比較にWilcoxon signed-rank test,χ2検定,Spearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】 対象者には,アンケート調査の結果における情報の処理・開示について紙面にて了承を得た。【結果】 アンケートの有効回答数は,自宅退院患者総数36名中22名(61%)であった。内訳は男性9名,女性13名,平均年齢77.6±13.5歳であった。疾患内訳は脳血管障害13名,運動器障害9名であった。平均在宅生活期間は,154.6±42.8日であった。BI変化値と,年齢,性別,疾患,在宅生活期間との関係では有意差はみられなかった。BI基本変化値での比較は,退院時に35点以上の維持・向上群が8名,低下群が4名,30点以下の維持・向上群が5名,低下群が5名であり有意差はみられなかった。一方,BIセルフ変化値での比較は,退院時に55点以上の維持・向上群が11名,低下群が2名,50点以下の維持・向上群が3名,低下群が6名であり,55点以上の方が有意に維持・向上群が多くなった(p<0.05)。【考察】 今回の結果,退院時にBIセルフが55点以上を示した群において,在宅時のBIセルフが維持・向上されることがわかった。また,在宅生活期間とBI変化値に有意差が認められなかった。このことは,入院中にセルフケアが自立レベルに到達していれば,退院後もその能力が維持・向上することを示している。これは,維持・向上群では退院後の日々の生活の中で自己で行う行為を重ねることができるため,能力の維持・向上に繋がっていると考えられる。逆にBIセルフが50点以下の群では,介助者の関わり方に影響を受け,自己で行う回数や方法が一定せず能力低下に繋がるのではないかと考えられる。また,セルフケアが退院時に自立もしくは自立に近い能力を獲得できていれば,自宅退院後におけるセルフケア能力は,退院後の在宅生活期間に左右されることなく維持向上できることを示している。今後も引き続き,アンケート調査を行いながら,BIの詳細な項目間での検討や,自宅退院後の介護保険サービスの利用状況,精神・心理面の変化を含めた調査・分析を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 退院時のセルフケアが自立レベルに到達すれば,在宅生活期間の長短に関わらず,在宅生活での能力の維持・向上が図れると示されたことから,入院中のリハビリプログラムや目標を考える一助となる。