理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
高齢女性におけるADL障害(Impaired Function)と身体機能の関連
杉野 陽一水上 諭富田 義人岡部 拓大平良 雄司川原 洋一金ヶ江 光生
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p. Ea0948

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抄録
【はじめに、目的】 2007年に超高齢社会に突入した我が国において、加齢により身体機能の低下が進行する高齢者は、基本的な日常生活活動(ADL)、さらには手段的日常生活活動(IADL)が低下すると報告されている。臨床においても、高齢者のADL能力の低下を予防し、身体機能の維持・改善を図ることは重要な課題である。そこで、本研究ではHuangらによって定義されたADL障害(Impaired Function、以下IF)を基に、身体機能との関連を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は、当院整形外科外来を受診した65歳以上の地域在住女性86名(平均年齢77.0±5.6歳)であった。調査項目は自記式質問紙にて、年齢とHuangらのADL困難度について聞き取りを行った。ADL困難度は、1.車の乗り降り、2.腰を曲げ軽いものを持ち上げる、3.床から5kgの物を持ち上げる、4.靴下やストッキングをはく、5.頭上にあるものに手が届く、6.2時間立つ、7.平らな所を100m歩く、8.止まらず階段を10段登る、9.階段を10段降りる、10.食品や衣類の買い物、11.きつい家事や庭仕事をする、12.約15kgの鞄や3~4歳の子供を持ち上げる、13.食事をしたり洋服を着る、14.自分の食事を用意する、上記の14項目について困難の有無を調べた。先行研究を基に14項目中、3項目以上困難を有するものをIF有りと定義し、IF有り群・IF無し群の2群に分類した。身体機能評価は筋力の指標として利き手の握力(JARMAR Hand dynamometer PC-5030J1使用)、バランス能力の指標としてFunctional Reach Test(FRT)、柔軟性の指標としてFinger Floor Distance(FFD)を測定した。また身長と体重からBody Mass Index(BMI)を算出した。統計解析は2群間における年齢、BMI、各身体機能の比較にはMann-Whitney U検定を用いた。また、IF有り群の関連要因を明らかにするため、年齢、握力、FRT、FFDを説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。有意水準を危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の目的および測定内容の説明を十分に行い、書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 IF有り群(n=65)はIF無し群(n=21)と比較して年齢が有意に高く(P=0.003)、握力は有意に弱く(P=0.013)、FRTは有意に短く(P=0.003)、FFDは有意に短い(P<0.001)結果であった。BMIにおいては2群間に有意差は認められなかった。IF有り群を結果変数とする多重ロジスティック回帰分析の結果、FRTが1cm長くなるとIFを有するリスクは0.91倍(95%信頼区間0.84-0.99)と低くなり、FFD が1cm長くなるとIFを有するリスクは0.91倍(95%信頼区間0.86-0.97)と低くなった。【考察】 本研究の結果から、IF有り群はIF無し群と比較して年齢が有意に高く、FRT・FFDは有意に短く、握力は有意に弱かった。古名ら(1995)は、身体機能は加齢に伴い低下し、日常生活における諸活動に影響を及ぼすと指摘している。このことから、身体機能の維持・改善によりADL障害は予防できると考える。多重ロジスティック解析結果から、FRT、FFDはADL障害であるIFと有意に関連していた。金ら(1992)は、高齢者の身体活動の遂行に必要な身体機能について、筋力、移動、バランス、柔軟性を挙げている。また、宮原ら(2004)は若年者と比べ高齢者の身体機能の中で、最も低下したのはバランスであったと報告している。今回用いたADL困難度のうち、体幹の屈曲・伸展に関する活動は柔軟性が密接に関連し、歩行・立位保持に関する活動はバランス能力が密接に関連すると考えられる。このことから、高齢女性のADL障害には身体機能のうち、バランス、柔軟性が大きく影響したと考える。【理学療法学研究としての意義】 ADL評価の指標として、バランス能力、柔軟性の評価は有用であると考える。また、ADL能力の維持改善には筋力強化に加え、バランス能力、柔軟性に対するアプローチが重要であると思われる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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