理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
高齢者の運動機能と運動イメージの関連性について
─介護予防事業を通して─
猪岡 弘行松井 昌明松崎 純子森田 良一中島 成美臼田 滋
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p. Ea1008

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抄録

【はじめに、目的】 近年、リハビリテーション分野においても、運動イメージについての研究が進められており、運動イメージの特性や活用方法などについて検討されている。運動イメージの特性としては一人称・三人称で表記される運動感覚イメージや視覚イメージがあり、また、心的動作時間の運動イメージについての研究も報告されている。運動イメージ能力は運動の習熟度と関連があることが示されており、運動の習熟度が高い人ほど、運動イメージ能力が高いことが報告されている。また、年齢と共に低下する傾向にあり、高齢者においては運動イメージ能力が低いことも報告されている。運動の習熟度と運動イメージは密接な関係にあるとされながらも、運動機能の推移が運動イメージの変化に関する研究は散見されない。本研究では、介護予防事業の運動器機能向上プログラムに参加された方を対象に運動機能の推移を評価し、これらが運動イメージに与える影響を調査することで、高齢者の運動機能が運動イメージとどのように関連するかについて研究することを目的とした。【方法】 埼玉県大里群寄居町にある介護老人保健施設やまざくらで、今年度実施している介護予防事業運動器機能向上プログラムに参加された特定高齢者29名に対し、運動イメージを用いたプログラムは行わず、3か月間の運動プログラムを実施し、運動器機能と運動イメージの評価を行った。運動器機能の測定項目は、握力とマシン機器による上下肢の筋力・Timed up and go(TUG)・Functional Reach Test(FRT)・片脚立位時間・長座位体前屈・5m歩行を測定した。運動イメージの評価はControllabilitysofsmotorsimagerystest(CMI-t)・5m心的歩行時間・The movement Imagery questionnarire-Revisedssecondsversion(MIQ-rs)を用い、それぞれ運動イメージの統御可能性、一人称、三人称の明瞭性、心的動作時間を測定した。初回と最終に参加された方27名(男性7名 女性20名 年齢76.6±5.9)のデータを収集し、統計ソフトSPSS ver19.0を使用し、対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。運動プログラムは1週間に1度、1回の時間を2時間とし、筋力・バランス機能・柔軟性の機能向上を中心としたプログラムを12回実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 研究対象となる介護予防事業の運動器機能向上プログラムへ参加された方全員には、書面と口頭にて十分に説明した後、書面にて同意を得て実施した。【結果】 本研究の結果、片脚立位時間は25.8±21.2秒から33.3±24.4秒、TUGは8.3±2.0秒から7.4±1.7秒へ、上肢の筋力は60.9±26.4kgから64.8±31.7kg、下肢の筋力は67.2±29.6kgから72.7±28.3kgへと、バランス能力、筋力の面で有意な改善を認めた。その他の項目には優位な改善を認めなかった。運動イメージは、5m心的歩行時間が1.67±1.64秒から0.78±0.78秒、MIQ-rsは一人称イメージが33.2±9.4点から38.3±7.4点、三人称イメージが34.9±7.6点から39.2±7.8点、と2項目において有意に改善を示し、CMI-tにおいては、再現法で55.2%から70.8%、再生法で30.8%から56%へと向上を示した。【考察】 今回の研究結果では、筋力やバランス能力、運動イメージにおいて有意な改善を示す結果となった。「運動イメージは運動の習熟度と密接な関連がある。」ということからも、運動機能の向上に伴い、運動イメージ能力も向上したものと考える。今回、運動イメージを用いた介入は行っておらず、また、運動頻度も高いものではないが、3カ月に及ぶ運動プログラムを行った結果は、運動器機能に変化を与え、運動イメージにも変化を与えた。これらのことより、運動イメージは運動の習熟度と密接な関係にあり、運動機能の向上が運動イメージに影響を与えていることが示唆された。今後は、効果の持続や効果的なプログラムの立案も視野に入れ、中・長期的な視点からも運動イメージを捉えていき、当プログラムの効果を検証していく必要があると思われる。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究では、運動の習熟度と運動イメージには密接な関係性があることがわかった。運動器機能の向上は大きな変化が見られなくても、運動イメージを評価することで量的な側面だけでなく、質的な側面からも効果の検証が行えるのではないかと思われる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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