抄録
【はじめに、目的】 自立した生活もしくはできるだけ介助量の少ない生活を送ることは、リハビリテーションの目的であるQOLの向上のために重要な要素である。そのためにはできる限りの身体機能障害の回復と高次脳機能の改善および物理的・社会的環境の整備を図らなければならない。また、QOLに関する因子として、身体的な要因があるが、高齢になるにつれ身体機能・身体活動量は徐々に低下し、脳血管疾患や変形性関節疾患といった障害を有すると著しく低値となることが報告されている。よって、QOLと身体機能・身体活動量の関連を検討することは重要であると考えられる。そこで本研究では、老人保健施設の通所サービス利用者の日常生活での身体活動量に、健康関連QOLや運動機能がどのように関連するか検討することを目的とした。【方法】 対象:歩行や日常生活動作に介助を必要としない老人保健施設通所サービス利用者24名(年齢77.3±10.9歳、男性9名、女性15名、介護予防4名、通所リハビリテーション者20名)とした。調査方法:健康関連QOLの調査としてSF36v2、身体活動量の調査として国際標準化身体活動質問表(IPAQ short version)を用い、面接を行った。SF36v2はマニュアルに従って得点化し、IPAQは得られた週当たりのMETs総量から体重、酸素摂取当量を加味して1日あたりの消費カロリー(kcal/day)を算出した。算出された消費カロリーを、杉山ら(1996)の高齢者(65歳以上)の安静時代謝量平均値男性1330kcal、女性1176kcalを基準とし、それ未満を低活動群(13名)、それ以上を高活動群(11名)に分類した。運動機能は面接と同時期に握力(kg)、片脚立位(秒)、TUG(秒)をそれぞれ2回ずつ測定し、良い数値のものを採用した。統計学的分析はSF36下位得点、身体運動機能における群間での差について、危険率5%を有意水準としunpaired-t testまたはMann-Whitney U testを用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 被検者には事前に研究の目的と結果を統計的に処理すること、不参加による不利益のないことを説明し、参加への同意が得られた場合に研究へ参加した。【結果】 高活動群、低活動群の1日の代謝量はそれぞれ1728±383kcal/日、1141±33kcal/日であった。SF36の下位項目では全体的健康感(GH)で群間に有意な差があり(p<0.05)高活動群で高く、他の下位項目では差が見られなかった。また有意差はなかったものの、身体的健康度に関する下位項目(特に身体機能、日常役割機能)の得点は、低活動群と比較し高活動群で高い傾向にあった。運動機能では握力で有意な差が見られ(それぞれ30.9±6.1kg、13.4±4.8kg、p<0.01)、高活動群で高い値を示した。片脚立位時間、TUGでは差が見られなかった。【考察】 身体機能は健康状態への認識が高まることによって、高齢者の様々な活動に対する意欲が高まり、それが身体活動量へ反映される(川手ら2008)と報告されている。今回の研究結果においても、身体活動量が高い人ほど、自分は動けるというような意欲・向上心があるため、自己の健康に対する評価が高くなる傾向にあり、身体活動量が低い人は、前よりも動けなくなったという悲観的になる傾向にあると考えられる。身体活動量が低下する要因として、個々の身体機能も関与するが、転倒への恐怖心、メンタル・意欲の低下、家族・親戚・友人との付き合いの減少、家庭内での役割の減少、趣味活動の減少、さらに老人保健施設においてサービス提供者(リハスタッフ・介護スタッフ等)の過度の介助が増加すること等が考えられる。よって身体活動量を向上させるような介入や利用者個々のADL能力をスタッフが十分に把握し、本来できるはずのADLを支援し必要最低限の介助で対応すること、家庭内での役割・趣味活動を行うことなど、精神的要素も含めたアプローチを行うことで身体活動量が増加し、さらに健康関連QOL向上に繋がると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 SF36の全体的健康観得点と身体活動量に関連があることを証明し、健康関連QOLの評価が老健通所サービス利用者の健康観の把握に有用であることを示した。健康関連QOLの向上については、施設内あるいは家庭生活における身体活動量の向上が要因の一つとなる可能性について論じた。