理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
要介護高齢者の運動機能と運動FIMとの関連
林 悠太鈴川 芽久美波戸 真之介石本 麻友子島田 裕之
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p. Ea1010

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抄録

【はじめに、目的】 日常生活活動(ADL)障害を持たない地域在住高齢者を対象に、運動機能とADLの障害発生率との関連を報告した研究は多く見られ、ADLの低下予防には運動機能の維持が重要な要素となっている。しかし、要介護高齢者においては、運動機能とADLの関連を明らかにした研究は少ない。そこで、本研究では要介護高齢者を対象に、運動機能とADLの関連を検討し、効果的なADL予防対策を探ることとした。【方法】 対象は通所介護サービスを利用していた要介護高齢者2695名(男916名、女1779名、年齢81.9±6.7歳)であった。要介護度の内訳は、要介護1が48.3%、要介護2が33.4%、要介護3が14.2%、要介護4が3.5%、要介護5が0.6%であった。対象者の条件は、明らかな認知症を有さず、すべての検査の実施が可能であることとした。測定項目は、運動機能として握力、chair stand test(CST)、片足立ち検査、6m歩行速度、timed up & go test(TUG)を、ADLの評価としてFunctional Independence Measure(FIM)の運動項目13項目(FIM-M)を用いた。FIM-Mはすべての項目が6点以上である者を自立群、1項目でも5点以下の項目がある者を介助群として2群に分けた。解析方法については、従属変数は自立群・介助群とし、独立変数は年齢・性別・運動機能の各測定項目とした。各変数において単変量解析(χ2検定・t検定・Mann-WhitneyのU検定)を行い、有意差が見られたものにおいて、ロジスティック回帰分析を用い比較・検討した。また、ロジスティック回帰分析によって選択された因子は、ROC曲線を用いて自立群と介助群を最適分類するためのcut-off値、および曲線下面積(AUC)を求め、感度・特異度を算出した。有意確率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、数値の公表に関して、統計量を用いるなど個人の特定がなされないよう配慮することで了承を得た。本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】 自立群は1327名(男439名、女888名、年齢81.7±6.5歳)、介助群は1368名(男477名、女891名、年齢82.1±6.9歳)であった。単変量分析より、握力、片足立ち検査、6m歩行速度では自立群に比べ介助群で有意に低く、CST、TUGでは有意に高かった。性別、年齢では群間に有意差は認められなかった。ロジスティック回帰分析では、ADL自立度とは、握力(0.99,95%CI 0.98-0.99,P<0.01)、片足立ち検査(0.99,95%CI 0.98-0.99,P<0.05)、6m歩行速度(0.53,95%CI 0.35-0.79, P<0.001)、TUG(1.07,95%CI 1.05-1.09,P<0.001)においてそれぞれ有意な関連が認められた。ROC曲線においては歩行速度のAUCが67%と最も高く、cut-off値は0.67m/s、感度76%、特異度48%であった。【考察】 単変量分析およびロジスティック回帰分析の結果から、FIM-Mに影響を及ぼす因子として抽出されたのは, 握力、片足立ち検査、歩行速度、TUGであった。Guralnicら(2000)は、自立高齢者のADL障害発生と立位バランス、歩行速度、椅子からの立ち上がり時間を統合した運動機能に関連があることを報告している。本研究の結果から、要介護高齢者においてもADLには運動機能の多くが関係しており、ADL低下予防には各運動機能の評価やアプローチも重要であることが示唆される。また、ROC曲線よりADLが自立するためには運動機能の中でも歩行速度が最も重要な因子であると考えられる。先行研究においても、佐直ら(1997)は、10m最大歩行速度は日常生活活動の予知ができると報告している。また甲斐ら(2011)は、要介護高齢者の5m最速歩行速度はFIM-M、およびその下位項目得点と有意な相関が認められたと報告していることから、歩行速度はADL全体に重要な関わりをもっていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 原田ら(2006)や鈴川ら(2011)によると、要介護高齢者は健常高齢者と比較して短期間でADLが低下しやすいことがわかっている。我が国では、その要介護高齢者が急増していることから、要介護高齢者のADL能力を維持するために効果的な取り組みが必要である。今回、要介護高齢者の運動機能とADLの関係が明らかになったことは、効果的なADL低下予防対策を考える上で有意義であると考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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