理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
要介護高齢者の認知機能低下の特徴
─10,865名に対するFIMの大規模調査─
鈴川 芽久美波戸 真之介林 悠太石本 麻友子島田 裕之
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p. Ea1011

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抄録
【はじめに、目的】 認知症は、死亡に直結することは少ない反面、介護を必要とする期間が長期にわたることが特徴である。平成19年国民生活基礎調査の結果では、要介護状態の原因の約14%が認知症であり、脳血管疾患に次いで第2の原因となっている。認知症は加齢とともに急増するため、今後もこの問題はさらに大きくなっていくものと推察される。厚生労働省高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護」による全国の要介護認定者における認知症高齢者数からの将来推計では、認知症を有する高齢者は、高齢化の進展に伴って増加し、2005年の169万人から10年後の2015年には250万人、ピークとなる2040年には、385万人になると推計されている。人口構造の変化に伴う主要な疾病構成の変化から、社会保障制度は大きく見直しがなされ始め、理学療法においても認知症を有する高齢者に対する効果的な取り組みの方法を見いだすことが求められるようになっている。本研究においては、要介護認定を受けて通所介護サービスを利用する高齢者の認知機能の状態を大規模集団を対象として調べ、要介護認定と関連の深い認知機能の状態を明らかにすることで、要介護認定の悪化を防ぐための着眼点を認知機能の側面から検討した。【方法】 対象は、要介護認定を受け全国で通所介護サービスを利用していた65歳以上の高齢者10,865名であった(平均年齢83歳、女性68%)。調査当時における対象者の要介護認定状況は、要支援1が863名(7.9%)、要支援2が1,274名(11.7%)、要介護1が2,501名(23.0%)、要介護2が2,409名(22.2%)、要介護3が1,817名(16.7%)、要介護4が1,290名(11.9%)、要介護5が711名(6.5%)であった。調査項目は、性別、年齢、要介護認定、functional independence measure(FIM)の認知項目(理解、表出、社会的交流、問題解決、記憶)であった。調査は、通所介護施設に勤務する看護や介護職員が、調査方法に関するトレーニングを受けた後にマニュアルに従って実施した。分析は、要介護認定別にFIM認知項目の得点に差があるかを一元配置分散分析と多重比較検定にて比較した。対象者を軽度(要支援1から要介護2)と重度(要介護3から5)要介護認定とに分割してダミー変数にて2値化(軽度:1、重度:2)して従属変数とし、年齢、性別、FIMの各項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。なお、性別とFIM得点もダミー変数にて2値化した(性別:男性1、女性2、FIM得点:5から7点を1、1から4点を2)。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し、同意を得た。本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】 要介護認定別のFIM認知項目の得点の比較では、すべての項目において有意差が認められ、要介護認定が重度化するほどに認知機能の得点も低下した。多重比較では、すべてのFIM項目で要支援1と2の間には有意な差がなかったが、その他の間の比較ではすべて有意差が認められた。多重ロジスティック回帰分析では、すべてのFIM認知項目と要介護認定とに有意な関係を認めた。とくに高い関連を示したのは、表出(オッズ比1.8、95%信頼区間1.5―2.1)、社会的交流(オッズ比1.8、95%信頼区間1.5―2.1)、問題解決(オッズ比1.7、95%信頼区間1.5―2.0)であった。【考察】 要介護認定の重度化とFIM認知項目の値の低下との明らかな関係が認められ、要介護度は認知機能の状態を反映した指標であるととらえられた。要介護度が重度な高齢者のほとんどは、運動機能障害を有しており理学療法の対象となり得るが、これらの高齢者は認知機能の低下も認められ運動機能の向上とともに認知機能の向上に対するアプローチを実施する必要があると考えられた。とくにコミュニケーションにおける表出、社会的交流、問題解決のための認知機能の側面が重度要介護者では低下する傾向にあり、対人交流を通して認知機能を賦活するプログラムが必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 在宅医療や施設サービスにおける理学療法は、認知症や認知機能低下を有する高齢者を対象として実施されることが多い。いままでの理学療法は、認知機能に対するアプローチは積極的に行われてこなかったが、今後は認知機能低下を有する高齢者の特徴を把握し、効果的な理学療法を実施することで、要介護認定の悪化を予防していくことが求められる。本研究は大規模集団を対象とした要介護高齢者の認知機能の特徴を明らかにした研究であり、その意義は高いと考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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