理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
訪問リハビリテーション従事者の「リスク管理」に関する意識調査
平野 康之寺本 千秋岩﨑 正和小嶋 裕畠中 泰司鶯 春夫田頭 勝之山田 英司岡崎 大資平嶋 賢一近藤 慶承
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p. Eb0588

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抄録
【目的】 目的は訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)従事者の「リスク管理」に関する意識や「リスク管理」実施上の状況、対策などの現状を明らかにすることである。【方法】 対象は「和歌山県訪問リハビリテーション実務者研修会」参加の訪問リハ従事者133名のうち、訪問リハ経験が1年以上で、以下に示すアンケート調査の結果に不備の無い84名である。職種は理学療法士(以下、PT)68名、作業療法士(以下、OT)16名、性別は男性60名、女性22名(未記入2名)、年齢は20歳代30名、30歳代36名、40歳代16名、50歳代2名、訪問経験年数は5年未満49名、5年以上35名である。アンケート調査には自己記入式質問紙を用い、訪問リハのサービス提供において訪問リハ従事者が抱いている「リスク管理」に関する内容について調査した。質問項目は、「リスク管理」に関する意識の程度や知識・技術の習得程度、訪問時に持参する機器・備品などであり、それぞれ単一または複数の選択回答、4~5段階の順序回答により回答を得た。統計解析は、集計結果のうち順序回答を2群に分類して記述統計を行い、Fisherの直接確立法を用いて性別、職種、訪問経験年数(5年未満、5年以上)による群間比較を行った。なお、統計学的有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究の実施にあたり、対象者には研究内容について書面で説明し、その上で同意を得た者にアンケート調査を実施した。【結果】 質問項目の結果は、医療事故の予防や対応などの意識の程度の項目では、意識している群が全体の79名(94%)であった。しかし、「リスク管理」に関する知識・技術の習得程度の項目では、知識・技術があると感じている群が59名(70%)で、そのうち「十分にある」と回答した者はいなかった。訪問時に持参する機器・備品の項目では、血圧計77名(92%)、聴診器68名(81%)、パルスオキシメーター53名(63%)、体温計52名(62%)の順に持参する割合が高かった。救命救急法に関する講習会などへの参加の項目では、「有」が56名(67%)で、そのうち自動体外式除細動器の講習受講者は41名(73%)であった。訪問時の事故や急変などの経験の項目では、「有」が26名(31%)で、そのうち19名(73%)が救急搬送を経験していた。さらに急変時に適切な対応を取る自信の程度の項目では、自信があると感じている群が44名(52%)で、そのうち「十分にある」と回答した者は3名(0.07%)であった。「リスク管理」マニュアルの有無の項目では、「有」が57名(68%)で、そのうちマニュアル内容について「十分に知っている」と回答した者は6名(11%)であった。群間比較の結果では、性別、職種別、訪問経験年数別のいずれの項目においても有意差を認めなかった。【考察】 「リスク管理」に対する意識は高いものの、知識・技術の習得程度が「十分ではない」と感じている者が多い結果を示した。これについては、性別、職種や訪問経験年数による有意差を認めず、これらの要因の影響は少ないものと考える。また、訪問リハ時に持参する機器・備品については、バイタルサインの評価などに使用する器機・備品を持参している者が全員ではないことが明らかとなった。これに関しては、対象者の特性やプログラム内容などの調査を行っていないため詳細は不明であるが、「リスク管理」の上で必要な最低限の機器・備品は常に持参することが望ましく、その意識づけが肝要である。救命救急法に関する講習会参加者は、全体の約70%と比較的高い結果を示したが、急変時に適切な対応を取る自信が十分にあると回答した者は極わずかであった。これは、自身の能力をより低く回答した可能性もあるが、訪問経験年数などに関わらず往々にして個々の知識・技術の不足からくる「自信不足」が影響しているものと推察する。また、勤務先に「リスク管理」マニュアルがあっても、内容を十分に知っていると回答した者は約10%しかいなかった。これに関しては、各事業所におけるマニュアル周知の対策不足や個々の従事者の認識不足を推察せざるをえない。これらのことから、「リスク管理」の実施にあたっては単に意識するだけではなく、管理すべきリスクや必要な機器・備品など、「リスク管理」の程度や基準が客観的にわかるような指針の再構築が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果は、訪問リハにおける「リスク管理」の実態を把握し、今後の訪問リハサービスの質的向上に向けての具体的な対策の再構築の資料として活用が可能であると考えている。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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