理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
ケアハウス入居者の転倒と運動機能,認知機能,注意・遂行機能との関係
緑川 亨三谷 健田村 邦彦太田 恭平府中 達也名越 崇博東郷 史治小松 泰喜
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Eb0624

詳細
抄録
【はじめに】 ケアハウスの入居対象者は,60歳以上で自炊ができない程度の身体機能の低下,または高齢などのために独立して生活するには不安があるものである.近年,入居期間は長期化する傾向にあり,その間に転倒を起因とする身体活動の低下,さらには身体機能や認知機能の急激な低下が生じ,退去を余儀なくされるものも多い.本研究では,高齢者の転倒と関連する身体的要因の一部を明らかにすることを目的として,ケアハウス入居中の健康な高齢者を対象に転倒経験と身体機能,認知機能,注意・遂行機能との関係を調べた.【方法】 対象は茨城県K市にあるケアハウス入居中の16名(平均年齢80.5±6.7歳).対象者はADLが自立しており,測定に支障となる視覚や聴覚の著明な低下のあるものはなかった.認知機能評価としてMMSEを用い,運動機能評価にはTUG,10m全力歩行時間,握力,片脚立位(開眼・閉眼)時間を用いた.また,IADLの評価として老研式活動能力指標を用い,問診により過去1年間の転倒経験を聴取した.注意・遂行機能の評価にはFlanker課題を用いた.課題はPC画面上にて呈示されるターゲット矢印の左右方向を答える課題で,ターゲットの左右には同じ長さの線分または矢印が左右に各2つ(Flanker)同時に表示される.呈示される刺激の種類はFlankerが全て線分(neutral条件),全てのFlankerがターゲットと同一方向を向いている矢印(congruent条件),全てのFlankerがターゲットと逆方向を向いている矢印(incongruent条件)の3種類であった.測定は椅子座位にて行い,対象者にはターゲットの向きが右の場合は右手の示指でMキーを,ターゲットの向きが左の場合は左手の示指でZキーを押してもらった.課題は各刺激32施行,計96施行をランダムな順序にて平均4秒間隔で実施し,被験者毎に各条件での反応時間の中央値とエラー率を算出した.統計解析には年齢を制御変数とした偏相関分析を用い,転倒と各変数との相関関係を調べた.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,署名による同意を得た.本研究は東京工科大学倫理審査委員会より承認を受けて実施した.【結果】 偏相関分析の結果,Flanker課題の各刺激条件における反応時間と転倒回数との間に有意な相関を認めた(neutral条件:r=0.774,p<0.01,congruent条件:r=0.812,p<0.01,incongruent条件:r=0.665,p<0.05).また転倒回数と10m全力歩行時間とには有意な相関が認められた(r=0.676, p<0.05)が,Flanker課題の各刺激条件における反応時間と通常および10m全力歩行時間との間には有意な相関は認められなかった.一方,握力,開眼・閉眼片脚立位時間,TUG,老研式活動能力指標,MMSEとの間には有意な相関は認められなかった.【考察】 本研究の結果,転倒回数とFlanker課題の各刺激条件での反応時間との間には有意な正の相関が認められた.Flanker課題での反応時間の延長は,主には視覚から入力された情報が脳内にて迅速に処理されないことに起因し,注意・遂行機能の低下を示唆している.反応時間が延長した高齢者では,迅速な情報処理能力の低下によって,急な外部環境の変化や体勢の変化等への対応が遅れ転倒に結びついてしまう可能性があると考えられた.このことからケアハウス入居高齢者の転倒は注意・遂行機能の低下と密接に関連する可能性があると推測された.また転倒回数と10m全力歩行時間との間にも有意な正の相関が認められた.先行研究では,高齢者の歩行速度は最大酸素摂取量,膝伸展力,静的・動的バランス機能と関連する指標であり,高齢者を対象として簡便な総合的な体力指標の一つとして用いられている.さらに,歩行機能の低下は高齢者の転倒リスクを増加させる要因の一つとして指摘されている.本研究の結果は,これらの結果を支持するものである.以上より,ケアハウス入居中の高齢者の転倒は注意・遂行機能および総合的な体力指標である歩行速度と関連することが推察された.一方,Flanker課題の各刺激条件での反応時間と10m全力歩行時間との間には有意な関連性は認められなかったことから,ケアハウス入居中の高齢者の注意・遂行機能と歩行速度で推測される総合的な体力は独立した機能であると考えられた.本研究の結果からは、転倒と注意・遂行機能の低下あるいは歩行速度の低下の因果関係は不明であるが,注意・遂行機能と歩行速度の低下を防ぐことは転倒の一次予防,または転倒発生後の機能低下による転倒予防のどちらにおいても,重要である可能性があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 ケアハウス入居者において転倒と注意・遂行機能の低下が関連していることが示唆されたことから,転倒予防対策として運動機能の低下に対する運動介入のみではなく,注意・遂行機能の低下予防や改善のためのアプローチを行うことは重要であると考える.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top