理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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坐骨後方サポートクッションが骨盤および腰椎カーブに与える影響
福田 淳鈴木 哲高尾 英次森脇 拓郎藤原 康英上代 康之藤田 大介
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p. Eb0647

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抄録
【はじめに、目的】 車いすの適正な座位において骨盤の傾斜角は重要である.通常,座位重心線は坐骨結節より後方にあるため骨盤は後傾位となりやすい.過度な骨盤後傾位では重心が後方へ移動し下肢への荷重量が減少するため,片手片脚駆動や片脚駆動時の効率性は低下する.また,座位上での上肢活動においては骨盤後傾位によりリーチ動作等の活動性は低下する.一般に,座位における骨盤の過度な後傾を防ぎ骨盤傾斜角を調整するには座面やバックサポート等の使用や,背座角,背張り、ランバーサポートなどの調整が必要となり,時間と費用を要する.一方で簡易的なシーティングの一環としてポジショニングのためにバスタオルを使用した場合には,職員の細かなチェックが必要であり,再現性が問題となる場合が多い.そこで本研究では,簡易且つ再現性の高い方法として座面により骨盤後傾を制御できる車いすクッションを開発することを目的とした坐骨後方サポートクッションを試作し,座位時の骨盤傾斜角および腰椎カーブに与える影響を平面クッションとの比較により検討した.【方法】 対象は健常成人10名(平均年齢22.9±3.9 身長164.3cm±5.0 体重60.3kg±7.5)とした.実験条件は坐骨後方サポートクッションと平面クッションの2条件とした.平面クッションは,30mmのチップウレタンをベースにし,10mmの高弾性ウレタンで覆う2層のクッションとし,坐骨後方サポートクッションは30mmのチップウレタンをベースに最後端より前方110mmまでの部分にベースより硬度のあるチップウレタン30mmを張り合わせ,2層目を形成し,45°の傾斜をつけた.3層目は平面クッションと同様に10mmの高弾性ウレタンを使用した.被験者には,背もたれのない台に着座させ,平面クッション上座位を基準として股・膝関節90°,足関節0°になるよう,対象者の体格に合わせ調整し,腰を深く座り前方を見ることとリラックスするように指示した.腰椎カーブおよび骨盤傾斜角の測定には,Spinal Mouse(Idiag社)を使用した.実験手順は,事前に各棘突起を触診で注意深く確認した後,第7頸椎から第3仙椎までの棘突起上にセンサー部を当て,頭側から尾側へ移動させて測定した.その後,第1 腰椎から第1仙椎までの上下椎体間がなす角度の総和である腰椎カーブ,骨盤傾斜角を以後のデータとして使用した.両クッション間における腰椎カーブおよび骨盤傾斜角の比較のために,統計学的解析にはWilcoxonの符号付順位検定を使用し,危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に,本研究の趣旨およびリスクを紙面にて説明し文書にて同意を得た.また,島根リハビリテーション学院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:1).【結果】 2条件における腰椎カーブおよび骨盤傾斜角はそれぞれ平面クッション(腰椎カーブ:27.1±10.7°, 骨盤傾斜角:-19.1±6.2°),坐骨後方サポートクッション(腰椎カーブ:18.2±8.8°, 骨盤傾斜角:-10.3±6.9°)であった.平面クッションに比べ坐骨後方サポートクッションでは,腰椎カーブは有意に前彎し,骨盤傾斜角は有意に前傾していた.【考察】 坐骨後方サポートクッションを使用することにより,平面クッションと比べ腰椎カーブ、骨盤傾斜角ともに有意な減少が認められた.これは,平面クッションに比べ坐骨後方サポートクッションの使用にて骨盤は前傾し,腰椎は前彎することを示している.坐骨後方サポートクッションでは骨盤後傾の起点となる坐骨後面を支持することで骨盤後傾を制御し,それにより腰椎後彎も制御したと考えられる.以上から,坐骨後方サポートクッションは,座面により骨盤後傾を制御する一手段となり得る可能性が示唆された.簡易で誰がセッティングしても同様の効果が得られると考えられ,医療機関や福祉施設で幅広く活用できる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究により座面により座位時の骨盤傾斜角を調整できる可能性が示された.このことは,より効果的なシーティングとしての介入および新しいクッション形状の開発における基礎的資料となり得る.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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