抄録
【はじめに】 介護保険による入所者へ対する個別リハや通所ケア利用者に対する運動器の機能向上サービス、介護予防など、理学療法士の関わりが利用者の身体機能、健康関連QOLの向上に重要である。しかしながら、実際の関わりとしてはサービス利用の上限があり、1回の関わりの質が重要であり、効率的かつ効果的な介入方法が必要であると考える。近年、全身振動刺激(Whole Body Vibration;WBV)を用いた運動介入が短時間の介入で効果的であるとの報告があるが、国内での報告は少ないのが現状である。また、介護保険分野で対象となる高齢者などへ使用する上での負荷量の設定方法は十分検討されていない。そのため、まずは健常成人を対象とした基礎データの収集が必要であると考えた。そこで本研究では、健常成人を対象にWBVを用いた運動介入がどの程度の運動強度であるかを、心拍数および自覚的運動強度から検討することを目的とした。【方法】 対象は健常成人18名(男11名、女6名)で、平均年齢は20.2±2.3歳であった。運動負荷には、全身振動刺激装置G-Flexを用いて実施した。実施姿勢は、足部を20cm開脚し、膝関節軽度屈曲位(約40°)を維持したスクワット肢位とした。運動負荷プロトコルは、開始前座位安静5分・WBVあり3分(30Hz)・終了後座位安静3分とした。また、コントロールとして、1週間以上間隔を開けWBVなしで同様の姿勢についても実施した。測定は、常時心電図により心拍数を観察し、開始前座位安静5分後、WBV開始1分後・2分後・3分後、終了後安静座位1分後・2分後・3分後の値を指標とした。また、自覚的運動強度はBorgスケールを使用し、心拍数確認と同様のタイミングで対象者に確認した。得られた心拍数をもとに、運動開始3分後の運動強度をカルボーネン法〔運動強度=(心拍数-安静時心拍数)/(最大心拍数-安静時心拍数)×100〕を用いて算出した。その上で、WBVありとWBVなしの運動強度およびBorgスケールの違いを、対応のあるt検定およびウィルクコクソンの符号付順位和検定を用いて検討した。また、運動強度とBorgスケールの関連性についてピアソンの積率相関係数を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は弘前大学医学部倫理委員会の承認と、対象者に研究の趣旨と内容について十分説明し同意を得た上で行った。【結果】 算出した運動強度は、WBVありでは平均27.7%、WBVなしでは平均19.6%となり、WBVありで高い傾向となった(p=0.08)。Borgスケールは、WBVありが平均14.0(10~17)、WBVなしでは平均12.8(9~16)となり、有意にWBVありで高い結果となった(p<0.01)。また運動強度とBorgスケールとの関連性については、WBVありで高い相関関係(rs=0.64、p<0.01)を認めた。【考察】 運動強度を考える場合、一般的にはカルボーネン法の50~70%で有酸素運動、70%以上で無酸素運動とされ、またBorgスケールでは13(ややきつい)がATレベルとされている。本研究結果では、ほとんどの対象者がWBVありで運動強度としては70%未満であり、カルボーネン法をもとに考えると無酸素運動レベルとはいえなかったが、Borgスケールではほとんどが13以上となり運動強度の指標として相違が見られた。WBVの運動様式は、微小な外乱に対してスクワット肢位を保持する運動であるため、下肢筋を中心とした静止性運動であり無酸素的な運動要素が強い運動であると考える。さらに自転車エルゴメータで用いるような関節運動が伴う運動とは運動強度の考え方に相違があるものと考えられる。逆にBorgスケールで推定する運動強度よりも、心拍数を用いて推定する運動強度の方が低いという結果は、WBVを用いた運動では心負荷が自転車エルゴメータよりも低い可能性を示唆しているものと考える。以上より、本研究では心拍数からWBVを用いた運動の運動強度を算出し、その結果とBorgスケールとの関連性が高い結果が得られ、心拍数およびBorgスケールよりある程度の運動強度を推定することが可能であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 高齢者や障害者の運動処方をする上で、適切な運動強度で実施することが重要であり効果的である。そのため、今後の臨床においてWBVを用いた運動の運動強度を推定する視点を提示できたことは意義深いと考える。