理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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年齢がFunctional Reach Testの認識誤差に与える影響について
兼子 由梨絵丹野 克子佐藤 大
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p. Eb1238

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抄録
【はじめに、目的】 高齢者が自らの身体能力以上の課題を行った際にバランスを崩して転倒したというような報告をうける機会が多く、転倒危険因子として身体能力認識の変化も示唆されている。本研究では身体能力認識を、課題を遂行する際の身体能力あるいは環境に対する自己認識(自己予測)のことと定義する。身体能力認識の指標として、Functional Reach Test (以下:FRT)を用いてその実測値と予測値の認識誤差(以下:FRT認識誤差)を評価する方法がある。先行研究では、FR値にFRT認識誤差の絶対値を加えて転倒予測する方が最良であると報告しているものがある。しかし、身体能力は年齢に伴って低下すると言われているものの、FRT認識誤差が年齢に影響を受けるか否かは明らかにされていない。そこで、本研究ではFRT認識誤差を用いて、年齢との関係を検討することを目的とした。【方法】 対象はA市在住の65歳以上の日常生活が自立している女性高齢者49名(74.5±5.7歳)とし、日常生活や過去一年間の転倒経験および転倒時の場所や状況についてアンケートを行った。FRTは、ホワイトボードを体側に、目印を前方に設置した環境にて、Duncanの方法に修正を加えた方法を用いて実施した。開始肢位は足幅を肩幅程度に開いた立位で、肩関節屈曲90度位、肘関節伸展位、前腕回内位、手関節中間位とし、第3指尖先端の位置を開始位置とした。予測値は被検者の遠方より目標物を近付けていき、被検者が、最大前方リーチ時に届きそうだと思った位置で「はい」と言った所を予測の地点とし、開始位置とその地点との距離を計測した。予測値の測定後、実測値は開始位置と最大リーチ位置の距離を計測し、リーチする際は足底を床面に接地したままで、体幹回旋を行わないことを条件で測定した。FRT認識誤差は、実測値から予測値を差し引いた値の絶対値とした。Shapiro-Wilkの正規性の検定を行った後、正規性のある変数にはPeasonの相関係数、正規性のない変数にはSpeamanの相関係数を用いて、年齢とFRT認識誤差の関係を検討した。統計処理はSPSS16.00Jを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対し、測定の主旨および目的を文書と口頭で説明を行い、書面にて同意を得た。また、測定時には転倒リスク管理を行いながら実施した。【結果】 過去一年間に転倒を経験した者は17名(35%)で、転倒回数は1回、自宅の敷地内や外出先といった場所で作業中や不整地であったために躓いた、足元が滑ったとの回答が多かった。「最近転びやすいと感じる」と回答した者は13名(27%)、「転ばないように気をつけている」と回答した者は46名(94%)、「普段週一回以上の運動をしている」と回答した者は40名(82%)、「普段家事や畑仕事をしている」と回答した者は48名(98%)であった。正規性の検定では、正規分布している変数は予測値、実測値であり、正規分布してない変数はFRT認識誤差が検出された。測定変数の平均は、FRT予測値23.01±6.68cm、実測値23.58±5.08cm、認識誤差は4.35±3.13cmであった。年齢とFRT実測値間には有意な相関が認められた(r=-0.496、p=0.000)。年齢と予測値および年齢とFRT認識誤差の間には有意な相関がみられなかった(予測値:r=-0.21、p=0.147、FRT認識誤差:r=0.025、p=0.867)。【考察】 本研究では、年齢とFRT実測値間には有意な相関が認めたものの、年齢とFRT認識誤差の間に有意な相関を認めなかった。仮説では、FRT実測値もFRT認識誤差も年齢に影響を受けるのではないかと予測していた。結果では、FRT実測値は年齢と有意な相関があるという先行研究を支持したが、認識誤差は年齢の影響を受けなかった。その理由の一つとして,転倒の危険性が高くなるといわれているFRT実測値15.0cm未満、FRT認識誤差6.5cm 以上と比較し、本研究の対象者は身体機能が高かったことが影響していることが考えられる。また、アンケートの内容より、本研究の対象者は家事や畑仕事、運動といった活動量が多い者が多く、その活動量は身体能力が認識される機会が多く得られることに繋がり、結果としてFRT認識誤差は年齢に影響を受けなかったのではないかと推察される。【理学療法学研究としての意義】 本研究の対象者は、測定会場まで自力で来ることができ、家事・畑仕事・運動をする習慣がある、身体機能の比較的高い者が多かった。今後は、対象を虚弱高齢者まで広げ、FRT認識誤差と年齢との関係を言及する必要がある。さらに今回の対象者の生活習慣の結果から、認識誤差と活動量の関係も示唆された。今後、身体能力の認識誤差が生じる要因をより明確にしていくことで、介護予防や健康支援活動に有益な情報を提供できるのではないかと考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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