理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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中・高齢女性の後方ステップテストと年齢の関連性
管原 一禎小鹿 淳史山田 由佳五十嵐 望美久家 直巳
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p. Eb1247

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抄録
【はじめに、目的】 高齢者における転倒と身体的要因との関連をみた研究では下肢筋力やバランス能力に焦点をあてた報告が多いが,転倒予防には外乱が生じた時に素早くステップする能力,すなわち下肢の敏捷性も重要であると考えられている.敏捷性と加齢変化について宮本らは地域在住の健康成人828名を対象にTen step testを行い,下肢の踏み変え動作に関わる敏捷性が50歳以降から急激な低下を示すことを報告している.これまでの下肢の敏捷性を評価するテストは前方,側方に関する報告はされているが,後方に関するものはほとんどない.大腿骨頚部骨折や脊椎圧迫骨折を受傷する転倒方向は後方,側後方が多く,骨折を受傷する割合は男性よりも女性が多い.そこで,本研究は中・高齢女性を対象に,後方の敏捷性の評価として後方ステップテストを用い,加齢変化を調査する事を目的とした.【方法】 中・高齢女性36名(50歳代:10名,60歳代:10名,70歳代:10名,80歳代:6名)を対象とした.脳血管疾患をはじめ,測定に支障となる疾病および障害を有している場合は除外した.後方ステップテストは,白線の前方に立ち,どちらか一方の下肢で白線を跨ぎ,すぐに戻した後にもう一方の下肢で白線を跨ぐ.これらの動作をできるだけ早く連続して10回行う時間を測定した.測定は2回連続で行い,所要時間の短い値を測定値とした.対象者は測定前に十分に練習を行った.統計解析には,年代別の後方ステップテストに対して一元配置分散分析,多重比較(Scheffe)法を用い,ピアソン相関係数を用いた.いずれも有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て,対象者に研究の趣旨と内容について説明し同意を得た上で行った.【結果】 後方ステップテストの平均値は50歳代6.86±0.78秒,60歳代8.22±1.23秒,70歳代9.77±1.95秒,80歳代11.69±2.86秒であった.年代別の後方ステップテストの分散分析において有意差が認められた(P<0.01).多重比較法では50歳代と70歳代(P<0.05),50歳代と80歳代(P<0.01),60歳代と80歳代(P<0.05)で有意差を認めた.また後方ステップと年齢における相関係数は0.68(P<0.01)であった.【考察】 本研究では後方ステップの時間は加齢に伴い増加する傾向が認められた.これは加齢による知覚神経伝達速度の低下,シナプス伝達速度の遅延,関節の硬化や筋力低下,中枢神経系の情報処理過程の遅れが反応時間を遅らせた原因であると考えた.また加齢によって高齢者の姿勢は胸腰椎の後彎と骨盤の後傾が起こり,その代償として下肢の荷重関節が屈曲する傾向がある.そのため後方ステップに必要となる股関節の伸展が出現しにくくなっていることもステップ時間が増加した原因のひとつと考えられる.下肢筋力は20歳代をピークに徐々に低下を示し,バランス機能は片脚立ちを指標とした場合,50歳代以降直線的に低下し始めると考えられている.敏捷性においては男女共に50歳頃までは比較的良好な水準で維持され,それ以降急激に低下してくると報告されている.今回の結果では,50歳代と70歳代,80歳代では後方ステップテストに有意差が認められたが50歳代と60歳代では有意差は認められなかった.今回は対象者が少なかったため,今後は対象者数を増やして後方ステップの加齢変化を調査する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 加齢とともに後方の敏捷性は低下することが示唆された.今後は対象者数を増やして後方ステップの男女差,加齢変化について調査する必要性がある.加齢変化に伴う敏捷性の低下を遅らせること,既に低下した高齢者の敏捷性を回復させることは自立性の維持,転倒の防止の点で重要であると考えられている.そのため転倒予防には敏捷性を評価できるテストバッテリーが必要であると考える.今後は後方ステップテストを敏捷性の評価,転倒予測のテストバッテリーとして用いるためにさらなる検討が必要である.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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