理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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後方ステップテストの信頼性
小鹿 淳史管原 一禎山田 由佳五十嵐 望美久家 直巳
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p. Eb1261

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抄録

【はじめに、目的】 わが国の高齢者の年間転倒発生率はおおよそ10~20%程度と報告されている.高齢者において転倒が骨折の最大危険因子であるばかりでなく,その後のADL低下の要因としても重大であり,転倒予防の対策を確立することは重要な課題となっている.転倒時の原因としては,『滑った』あるいは『つまずいた』といったものが多いとされている.転倒予防には,このような状況に対応してすばやくステップする能力,すなわち,姿勢が乱れて支持基底面から重心が逸脱した時に,いかに素早く1歩を踏み出して体重支持できるかが重要であると報告されている.臨床では転倒リスクを評価するためにFunctional Balance Scale(FBS)やTimed Up and Go test(TUG),片脚立位保持時間などが用いられることが多いが,後方にバランスが崩れた際に転倒を防ぐ能力に関する評価法は少ない.また,下肢の敏捷性の評価に関しても,後方の敏捷性を評価する方法が確立されていない.そこで,今回健常者を対象に,後方ステップに関する敏捷性を調べるテストを試行し,後方ステップテストの信頼性と妥当性を調べ,測定機器を使用せずに簡便に実施することができる後方ステップテストの有効性を明らかにすることを目的とした.【方法】 1)後方ステップテストについて横に引いた長さ70cm,幅2cmの一本の白線の前方に肩幅位に両下肢を開いて立つ.検査者は対象者に『スタートの合図で片方の足で白線を跨ぎ,跨いだ足を戻した後にもう一方の足で白線を跨いで下さい.この時に足の裏をしっかり床面に接地させてください.できるだけ速く,合図があるまで繰り返し行って下さい.白線を踏んだ時はもう一度初めから測り直します』と説明し,練習を行なった後にストップウォッチを用いて所要時間を測定した.10回目のステップの足が白線を跨ぎ,戻し足底が床面に接地したときに測定を終了とした.2)信頼性の検討理学療法士3名が,健常成人20名(男性9名,女性11名,平均年齢29.8±7.3歳:22~49歳)を対象に後方ステップテストを実施し,1週間あけて再度同じ対象の測定を行うことにより,測定者内,測定者間の信頼性を調べた.テストは1回に2セット行い,その平均値を用いた.統計処理には級内相関係数(ICC)を用いた.3)妥当性の検討後方ステップテストの妥当性を調べるために,Ten Step Test(TST)との関連性を調べた.TSTは宮本らが開発したテストであり,敏捷性の観点から転倒リスクを測定する指標とされている.対象は健常成人(男性7名,女性13名,平均年齢68.5±9.7歳:51~83歳)であった.対象者に後方ステップテストとTSTを同時期に実施した.統計解析にはピアソンの相関係数を用い,有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て,対象者に研究の趣旨と内容について説明し同意を得た上で行った.【結果】 1)信頼性について測定者3名が20名の対象者に1週間の間隔をおいて測定した時の後方ステップテストのICC(1,2)は測定者各々について0.835,0.819,0.824であった.また,測定者3名が同時に測定した時の測定者間のICC(2,2)は0.997であった.2)妥当性について後方ステップテストの平均値は9.5±2.9秒であり、TSTでは8.3±2.3秒であった.後方ステップテストとTSTとの間にはr=0.89(p<0.001)と正の有意な相関が認められた.【考察】 後方ステップテストの信頼性について,ICCの結果より測定者内,測定者間ともに良好な信頼性があると考えられた.妥当性について,今回は敏捷性のテストバッテリーとして用いられているTSTとの関連性を調べた.TSTは既にその信頼性と妥当性が報告されている.結果よりTSTと後方ステップテストとの間には有意な相関が認められた.このことより敏捷性に関する妥当性は得られたと考えられる.後方ステップテストは,特に後方への敏捷性を調べることを目的としており,今回の対象者は,転倒歴のない健常成人であったので今後さらに幅広い対象者にテストを実施し,転倒状況の観点から有用性を検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 後方ステップテストの信頼性と敏捷性テストとしての妥当性が示唆された.本テスト法はストップウォッチと白線があれば,簡便に評価することが可能であり,今後,加齢との関連性,高齢者で特に問題となる後方への転倒リスクとの関連性が示されれば,臨床上有用なテストになると考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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