抄録
【はじめに】 Timed Up & Goテスト(以下:TUG)は運動器不安定症の指標の一つであり,その指標としての信頼性が高く,下肢筋力,バランス,歩行能力,易転倒性といった日常生活機能との関連性が高いことが示されている.そこで本研究は,足底への振動刺激がバランス機能に与える影響がTUGの測定値により異なるか否かを調査することを目的とした.【方法】 某福祉施設のデイサービスを利用する高齢者で,研究期間を通じて介入を遂行できた18名(84.9±5.0歳)を対象とした.対象者に足底振動刺激(FVS)(振動数3.7Hz,振幅6mm)を椅座位にて15分間/回,2回/週で3ヶ月間実施した.FVS介入前後に,重心動揺計にて対象者の総軌跡長,矩形面積,外周面積,実効値(以下:RMS)面積,RMS,X方向RMS,Y方向RMS,XおよびY方向最大振幅,XおよびY方向動揺変位変化を開眼で測定した.また,運動機能として10m自然歩行時間(以下:10m歩行),TUG,ファンクショナルリーチテスト(FR),体重負荷率(歩行補助具使用時の体重負荷量に対する体重比)を測定した.統計解析は,介入前後の各測定項目の差をみるために対応のあるt検定を用い,TUGの介入前の測定値を20秒以下(A群:n=9)と以上(B群:n=9)に分けてそれぞれで行った.p<0.05で有意差有りとした.なお,本研究は「平成21年度理学療法にかかわる研究助成」を受けて実施した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は畿央大学医学研究の倫理委員会の承認を受け,全ての対象者からインフォームド・コンセントを得た上で実施した.【結果】 FVS介入後,A群では重心動揺測定では総軌跡長は有意に減少し,運動機能では10m歩行,TUGは有意に低値を,FRは有意に高値を示した.B群では重心動揺測定ではRMS面積,RMSは有意に減少し,運動機能では10m歩行は有意に低値を,体重負荷率は有意に高値を示した.【考察】 TUGの高齢者の転倒予測のカットオフ値は13.5秒と報告されている.本実験では本カットオフ値以下の対象者がいなかったため,外出可能とされる20秒を基準として2群に分けてFVSのバランス機能に対する影響をみた.FVSの静的バランスへの影響は,総軌跡長,矩形面積,外周面積,実効値(以下:RMS)面積,RMS,X方向RMS,Y方向RMS,XおよびY方向最大振幅で改善傾向が認められたが,A群では総軌跡長に,B群ではRMS面積,RMSに有意な変化が認められた.このことは,動揺の減少による静的バランスの改善を示しており,FVSにより足底感覚の改善がなされたためと考えられる.FVSの運動機能への影響は,すべての項目で改善傾向が認められたが,A群では10m歩行,TUG,FRに,B群では10m歩行,体重負荷率に有意な変化が認められた.両群ともに10m歩行は改善が認められたが,TUG,FRの改善はA群だけに認められ,3か月間の介入ではTUGの測定値のよい方が改善しやすいことを示しており,TUGにみられる動的バランス,FRにみられる重心移動の改善はTUGの測定値により異なることが示された.しかし,B群においてもFVS介入によりTUG,FRの改善傾向は認められており,本介入を継続することで有意な変化が認められる可能性は考えられる.また,B群においては,体重負荷率の増加が認められ,この増加は足底への圧の増加につながるため,重心動揺測定で見られた静止時での動揺の減少や運動機能の改善にも影響を与えた可能性も考えられる.本研究では,椅座位での足底振動のため体重が負荷された状態での振動状態とは異なるものの,バランス能力や歩行能力の改善に効果的であることが示された.また,TUGの測定値の違いにより,運動機能の改善には時間差が生じる可能性が認められた.【理学療法学研究としての意義】 FVSは座位にて実施可能であり,立位保持不可能または困難な者に対するバランス訓練の一つとして使用でき,バランス機能の改善に加えて,歩行能力の改善が期待できる.特に運動機能においては,TUGの測定値の違いにより効果の表出に時間差があると考えられ,TUGは機能訓練効果を予測する一助となりうる.