理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
訪問リハビリ利用者の転倒に関する調査
吉田 泰輔石間伏 勝博大浦 由紀
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キーワード: 在宅, 転倒, アンケート調査
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p. Eb1266

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抄録

【はじめに、目的】 人口の高齢化が進む中、高齢者の転倒予防は我々セラピストの大きな課題の一つであり、とりわけ在宅高齢者の転倒要因は多岐にわたる。本研究の目的は、在宅高齢者の転倒に関する調査を行い、その要因及び傾向を把握することで今後の転倒予防対策の一助とすることとした。【方法】 対象は当訪問看護ステーションを利用しており本研究の主旨に同意が得られた234名(男性110名、女性124名;年齢73.07±11.79歳)とした。方法としては、基本情報・転倒状況・転倒要因などの項目を含んだ調査表を作成し、その調査票に基づいて担当セラピスト(当訪問看護ステーションに在籍するセラピスト11名、うちPT:6名、OT:5名)に利用者の転倒経験及び最近の転倒事例について調査を依頼し、得られた結果からその傾向を調べた。また、本調査では各セラピストが行った転倒予防対策や、介入に難渋した事例についてもアンケートを実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象の利用者には各担当セラピストが本研究の趣旨を説明し、協力の承諾を得た。【結果】 転倒歴があったのは234名中151名で、全体の65%を占める割合となった。主疾患は脳血管障害と骨・関節障害が48名(32%)ずつ、パーキンソン病・神経難病が32名(21%)、廃用症候群が6名(4%)、内科疾患が4名(3%)であった。要介護度は要支援1が9名(6%)、要支援2が30名(20%)、要介護1が11名(7%)、要介護2が35名(23%)、要介護3が30名(20%)、要介護4が20名(13%)、要介護5が10名(7%)であった。転倒時期は訪問開始後が99名(65%)(そのうち46名は訪問開始前にも転倒経験あり)であった。転倒場所は寝室が36名(24%)、リビングが28名(18%)、外出先が24名(16%)で他の項目よりも多い傾向を示した。転倒時間は日中が104名(68%)で他の項目よりも多い傾向を示した。転倒要因は運動麻痺が26名(17%)、筋力低下が20名(13%)、転倒に対する危機感が無く大雑把に動いてしまうことが26名(17%)で他の項目よりも多い傾向を示した。転倒要因に関しては優先順位をつけて2つまで選択することとしたが、双方共に結果の傾向は類似していた。また、各セラピストが行った転倒予防対策や介入に難渋した症例についてのアンケート調査から様々な知見が得られたので、以下にその幾つかを紹介する。介入事例:本人・家族に動作・介助方法を指導してからは転倒を防止できた。特定の場所で転倒を繰り返しており、転倒自体は防ぐことが困難であったが、その場所にクッションを設置することで外傷は予防できた。難渋した症例:リビングの環境整備を提案したが、レイアウトを本人に納得して頂くことができず転倒を防止できていない。家事や外出先での活動など自身の身体能力以上の動作を行いやすいが、転倒に対する注意を促しても改善が得られない。【考察】 転倒歴があった利用者は全体の過半数以上を占め、転倒時期としては訪問開始後が多く、介入後も在宅での転倒を防ぎきれていないことが示唆された。寝室での転倒要因としては、起き上がり・立ち上がり・移乗など難易度の高い動作を行う頻度が高いこと、更衣や整容など応用動作のバリエーションが多く無理な動作を行いやすいことなどが考えられる。リビングでの転倒要因としては、広々としたスペースとなるため手すりなどの物的支持が得られにくいことが考えられ、外出先での転倒要因としては不慣れな環境であること、周囲の人や悪天候など外的環境の影響を受けやすいことなどが考えられる。転倒要因に関して身体機能の影響はかなり大きいが、それと同等に動作に対する慎重さの欠如など、転倒に対する意識の有無が在宅での転倒に大きく関係していることが示唆された。また、介入事例に対するアンケートから、本人・家族への動作・介助方法の指導や環境整備により転倒及び外傷予防を図れた事例がみられたが、その反面難渋した症例に対するアンケートからは本人のこだわりにより住環境整備に至っていない事例や、転倒に対する意識が低く身体能力以上の動作を行うことで転倒を繰り返している事例も多数みられた。これらより、身体機能に対するアプローチと共に、寝室・リビングなど転倒しやすい場所に適切な環境整備を行うことや本人・家族へ動作・介助方法を指導することは非常に重要であり、その際は利用者の生活環境に対するこだわりや活動意欲を考慮した上で介入しなければ、転倒に対する実用的な対策には至りにくいことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、当訪問看護ステーション利用者における転倒の傾向を示すことができた。今後も継続した調査を行いスタッフと共有することで多様性のある高齢者の転倒を予防していくと共に、利用者の行動変容を促すための実践的介入についても知見を深めていきたい。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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