理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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急性期病院における入院患者の転倒要因について
徳永 誠次井上 恒平小川 健治平瀬 達哉井口 茂松坂 誠應
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p. Eb1267

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抄録

【はじめに、目的】 1999年以降、わが国の医療機関において医療安全・安心へのシステム構築が法整備も含めて急速に求められるようになってきた。2010年の財団法人日本医療評価機構の報告によると、転倒・転落を含む療養上の世話におけるインシデント事例は薬剤(44%)に次いで第2位(18.9%)を占めており、医療現場においてリスクマネージメントの観点より組織的に対策を講じている。病院内における転倒リスク抽出の評価ツールとしては、日本看護協会が1999年に推奨した転倒・転落アセスメントスコアシート(以下スコアシート)があるが、各医療機関で修正し運用されているのが現状である。われわれのスコアシートを用いた先行研究において、スコアシート項目の活動領域・排泄・薬剤などとともに運動機能に関わる項目も関連していることが窺われ、急性期病院の転倒アセスメントにおいて身体機能との関連を明らかにすることが課題となった。本研究の目的はスコアシート項目と身体機能との関連性を検討することとした。【方法】 対象は急性期A病院(病床数333床、平成22年度の平均在院日数12.8日)の内科系病棟における65歳以上の入院患者100名(平均年齢:79.1±6.7歳、男性67例・女性33例)を対象とし、短期での検査入院患者及び末期癌患者を除外基準とした。データ収集期間は平成23年6月1日から9月30日までの4か月間とした。方法は、対象者の1.スコアシートにおける該当項目・危険度・スコア点数、2.カルテからの基本情報、3.身体機能評価として、ハンドヘルドダイナモメーターを用いた大腿四頭筋筋力(測定機器:アニマ社製ミュータスF-1)で最大値を体重で除した体重比を算出した(単位:Nm/kg)。さらに、重心動揺検査(測定機器:アニマ社製グラビコーダGP-31)を行い、総軌跡長と外周面積を採用した。今回はスコアシート項目と危険度別(3群間)における身体機能との関係を比較検討した。また、アクシデント及びインシデントレポートからの転倒者状況も調査した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には紙面及び口頭にて十分な説明を行い、署名にて同意を得た。尚、本研究は長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 対象者の危険度別内訳は危険度1:20例(年齢:74.5±5.6歳)、危険度2:52例(年齢:79.6±6.1歳)、危険度3:28例(年齢:81.3±7.0歳)であった。一元配置分析で年齢、大腿四頭筋筋力、総軌跡長、外周面積において危険度1、2、3の群間に有意差を認めた。また、Bonferroni法を用いた多重比較において、年齢と大腿四頭筋筋力では、危険度1と2、危険度1と3において有意差が認められ、危険度2と3においては有意差を認めなかった。総軌跡長と外周面積では危険度1と2、危険度1と3、危険度2と3すべてにおいて有意差が認められた。有意水準は5%未満とした。また対象者から9名(危険度2:2名、危険度3:7名)が転倒を起こした。【考察】 急性期病院における在院日数の短縮化や病態像からリハビリテーション分野での転倒予防に向けた患者への直接的な介入は困難であると考える。急性期病院におけるスコアシートの信頼性について、米国ではHendrichらが開発したスコアシートが有効であるとの報告があるが、日本における日本看護協会推奨のスコアシートの予測妥当性などは、十分に明らかにされていない。しかし、本研究において転倒ハイリスク抽出の簡易的な評価として、スコアシートに加えて、身体機能評価が有用であることが窺われた。今後は転倒者の身体機能を含めた特異性を検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、簡易的な転倒アセスメントのツールとして重心動揺検査が有用であった。急性期病院という療養中の特殊性を考慮し、病棟内での簡便な身体機能評価の方法を提示することで転倒リスクの確定とともに医療現場におけるリスクマネージメントに寄与できるものと思われる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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