理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
虚弱高齢者の移動能力と日常生活能力に関するコホート研究
─デイサービス利用者を対象として─
矢野 秀典辻村 尚子牧田 光代
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p. Eb1273

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抄録
【はじめに、目的】 2000年の介護保険導入後、介護保険下でのデイサービスが多く実施されている.そして、2006年の介護保険法改定により新予防給付が新設され、介護予防を目的としたデイサービスも開始された.平成23年4月の時点では、通所介護および通所リハビリテーションを合わせると介護サービス、介護予防サービスともに居宅サービスの中で最も利用が多いサービスとなっている.しかしながら、その利用者の身体機能や生活状況の推移はほとんど明らかにされていない.本研究の目的は、デイサービス利用者の生活状況や移動能力の推移を把握し、機能維持のための施策を検討することである.【方法】 2011 年6月現在で都内、埼玉県内の3つのデイサービスセンターに登録されている高齢者のうち本研究に対し同意の得られた151名(平均年齢79.3歳、49~96歳、標準偏差8.1歳)を対象とした.調査項目は、自覚的健康度、ADL‐20、総合移動能力、屋内および屋外移動能力、外出頻度とし、調査開始時、6か月後、1年後の3時点で実施した.そして、Friedman検定を用いて経時的推移を比較した.また、年齢および自覚的健康度の影響を検討するために、79歳以下と80歳以上、初回評価時の自覚的健康度が非常に健康もしくはまあ健康(自覚的健康度良好群)とあまり健康でないもしくは健康でない(自覚的健康度不良群)のそれぞれ2層に層別化した分析も実施した.統計処理は、統計ソフトSPSS17.0Jを用い、有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはすべて、利用開始時に調査および本人が特定されないようデータ分析を行う旨を口頭と書面を用いて説明し本研究への同意を得た.また、本研究は目白大学倫理審査会より承認を得た上で実施した.【結果】 対象者の性別は男性46名、女性105名、要介護度は、要支援1が65名、要支援2が60名、要介護1~4が25名であった.Friedman検定により1年間で有意な変化が認められた項目は、ADL‐20うちの10m室内歩行、入浴、買物、外出および総合移動能力、屋内ならびに屋外移動自立度、外出頻度であった.これらのうち、ADL‐20の買物、外出に関しては、利用開始6ヶ月で向上しその後はほぼ変化が見られなかった.その他の6項目に関しては、1年間で徐々に低下が認められた.年齢別の検討では、買物では、79歳以下の群で全体と同様に利用開始後向上して、その後は維持していたが、80歳以上の群では変化が認められなかった.また、入浴、屋外移動自立度、外出頻度の3項目では、80歳以上群で有意な低下が認められたが、79歳以下群での変化は認められなかった.総合移動能力、屋内移動自立度において両群とも有意な低下が認められる一方、10m屋内移動、外出では両群とも有意な変化はみられなかった.自覚的健康度に関しては、買物、外出では、自覚的健康度良好群のみが6ヶ月後に向上していた.ところが、屋外移動自立度、外出頻度では、自覚的健康度良好群のみで有意に低下していた.入浴、総合移動能力、屋内移動自立度では両群で有意な低下がみられた.10m室内歩行に関しては両群とも有意な変化は認められなかった.【考察】 本研究では、1年間の推移を検討したが、日常作業を伴う身の回り動作、手段的ADLでは有意な変化が認められない一方、入浴や移動などダイナミックな動きを伴う動作において有意な低下が認められた.これは、下肢を中心とした運動機能の低下に起因しているものと推察された.そして、年齢で層別化した検討では、より高齢者の群にこの傾向が顕著にみられた.したがって、デイサービス活動では、特に高齢者をターゲットとして下肢機能維持・向上へのアプローチが重要であることが示唆された.利用開始時の自覚的健康度に関しては、自覚的健康度良好群のみで、開始後6カ月の買物、外出が向上していることから、デイサービスの利用により日常生活への意欲が賦活されたものと推察できる.ところが、自覚的健康度不良群と同様に移動能力は1年間で確実に低下しており、むしろ、転倒などのリスクが高まることも危惧された.今後は、さらに経過を追跡調査していく予定である.【理学療法学研究としての意義】 本研究により、デイサービス利用者の移動能力や日常生活能力の推移および年齢や自覚的健康度の差異による相違が明らかになった.この結果を踏まえ、下肢機能運動を中心としたアプローチにより、移動能力、日常生活能力低下を減少できる可能性が考えられた.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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