理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
運動習慣の有無に影響を与える生活習慣要因の検討
─中年者と高齢者との比較および相違─
水本 淳古名 丈人井平 光村瀬 裕志大國 美佳安田 圭佑佐藤 眞一権藤 恭之渡辺 修一郎
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p. Eb1272

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抄録
【はじめに、目的】 習慣的な運動は、肥満や心臓病、高血圧、糖尿病、癌などの罹患率の減少に加え、高齢期では、加齢に伴う体力低下の抑制、精神的健康度の維持、QOLの維持、骨量の維持、死亡率を低下させることが示されている。しかし、平成20年の国民健康栄養調査によると、運動習慣があるものは、男性33.3%、女性27.5%に留まっている。また、年齢層別に運動習慣がある者の割合をみると、50歳代では男性28.7%、女性25.0%であるのに対し、70歳代では男性41.9%、女性31.4%と高齢者で増加する傾向にある。運動習慣は食事摂取や、飲酒、喫煙、健康のための行動など生活習慣の一部として数多くの研究がなされており、社会人口学的要因、身体的要因、精神的要因、環境的要因などが関係することが挙げられている。本研究では、中年者と高齢者における運動習慣に関連する生活習慣要因を比較し、年齢層による要因の相違について検討することを目的とした。【方法】 平成22年度JSTのプログラム「コミュニティで創る新しい高齢社会」の企画調査の一環として「健康づくりと社会参加に関する住民意識調査」を実施し、地域住民805名に対し、町内会およびまちづくりセンターを通じて質問紙調査を行った。調査項目は運動習慣の有無の他、年齢、性別、身長、体重、同居の有無、就業の有無、WHO-5、飲酒の有無、喫煙の有無、食品多様性スコア(穀類、肉類、卵など13項目の食品群から、毎日取っている食品を尋ね、合計摂取個数を算出)、健康づくりの有無(「食事や運動に気を付ける」など、日ごろ心がけている健康づくり行動の有無)、外出頻度、転倒の有無、1日の歩行時間を尋ねた。運動習慣は、運動行動変容ステージの質問を用い、実行期、維持期のものを運動習慣あり、前熟考期、熟考期、準備期のものを運動習慣なしとした。分析は65歳未満を中年者、65歳以上を高齢者と分類し、それぞれの運動習慣の有無による差の検定を行った。また、中年者、高齢者の運動習慣のある群同士の要因の差を比較した。さらに、運動習慣に関連する要因の関係性の強さを調べるため、運動習慣の有無を従属変数にし、その他の変数を共変量とした強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った。差の検定はt検定、Mann-WhitneyのU検定、χ2検定を行い、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 質問紙の冒頭に、本研究の趣旨、回答しない場合でも不利益のないこと、個人情報を保護することを記載した上で、質問紙の返却をもって研究に同意したとみなした。本研究は、大阪大学人間科学部の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 中年者の有効回答数は258名(平均年齢56.7±6.3歳;25~64歳)で、運動習慣のあるものは29.8%であった。中年者の運動習慣の有無により、喫煙の有無、歩行時間、WHO-5、食品多様性スコアに有意差を認めた。高齢者の有効回答数は336名(平均年齢72.0±5.2歳;65~93歳)で、運動習慣のあるものは44.0%であった。高齢者の運動習慣の有無により、健康づくり行動の有無、WHO-5に有意差を認めた。中年者、高齢者における運動習慣あり群同士の各要因の比較では、年齢、性別、就業の有無、喫煙の有無、外出頻度、WHO-5に有意差を認めた。多重ロジスティック回帰分析の結果、中年者では、性別、喫煙の有無が有意な項目として抽出され、高齢者では、WHO-5と健康づくり行動の有無、歩行時間が有意な項目として抽出された。【考察】 運動習慣者の割合は先行調査と同様に中年者に比べ高齢者で高かった。中年者の運動習慣と喫煙の有無に有意な関連がみられた背景には,中年者では運動と禁煙行動が生活習慣病予防のための保健行動として密接に関係していることが推察された。また、高齢者においては、運動習慣とWHO-5、健康づくり行動の有無、歩行時間に有意な関連が認められ、高齢者では運動継続によるQOLの向上が実施率にも関連し、健康づくり行動の有無から、高齢者の方がより運動を健康行動の一部として捉え実施していることが考えられた。運動習慣あり群同士の比較では、性別、就業の有無、喫煙の有無、外出頻度、WHO-5に有意差を認め、性別では中年者では女性、高齢者では男性の割合が多く、高齢期においては女性の運動行動を促す必要性が示唆された。また、外出頻度に有意差を認め、運動を継続している者でも、高齢期では毎日外出を行わないものが増えることが考えられた。本研究は横断研究であるため、要因の因果関係までは言及できない点に留意が必要である。【理学療法学研究としての意義】 中年者においては生活習慣予防、高齢者においては介護予防として運動の重要性が示されている。本研究で得られた運動習慣に関連する知見は、運動習慣獲得に向けた理学療法士の介入の際の一助となることが考えられた。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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