理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
座位における下衣着脱動作方法の検討
椿原 和也栗田 宜享安藤 千春高橋 俊章
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キーワード: 下衣, 着脱動作, 座位
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p. Eb1286

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抄録

【はじめに、目的】 障がいのある人の下衣の着脱方法として、ブリッジ動作や立位になって行う方法が多く用いられているが、立位保持能力がない場合や、臥位をとるためのスペースがない状況では、座位のままで下衣着脱を行わざるを得ない場合がある。しかし、座位における下衣着脱時の運動に着目した研究は見当たらない。そこで本研究の目的は、座位の下衣着脱動作における、下衣臀部通過時の頭部・体幹・骨盤・下肢の運動学的分析を行うこと、また、臨床応用を考え、体幹の可動性が低下している場合との運動の比較を行うこと、そして、座位における下衣着脱動作の誘導方法を検討することである。 【方法】 対象は整形外科的および神経学的疾患の既往のない健常男性10名(年齢21.8 ± 1.4歳、身長168.3 ± 3.9cm、体重57.5 ± 4.9cm)である。課題動作はゴム輪を用いた模擬的な下衣着脱動作を、クラビクルバンドを用いた上部体幹伸展制限、および屈曲制限、体幹に制限をしない場合の3条件にて行った。計測機器は、三次元動作解析装置(VMS社製、VICON-MX)を用い、Plug-In-Gait全身モデルに準じて、3条件下でのゴム輪の左右臀部通過時の頭部屈伸・側屈・回旋、体幹屈伸・側屈・回旋、骨盤前後傾・側方傾斜・回旋、股関節屈伸・内外転、膝関節屈伸の関節角度を算出した。統計処理は、同条件の着脱それぞれの左右臀部通過時の角度の比較と、同条件の着衣と脱衣における臀部通過時の同側の角度の比較についてはt-検定を用いた。また、条件間の着脱それぞれの角度の比較については反復測定分散分析後の多重比較検定を行った。統計ソフトはSPSS ver.16を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 参加者には紙面および口頭にて研究の目的、方法、参加・協力の拒否権、もたらされる利益と不利益、個人情報の保護、研究成果の公表について十分説明を行い、同意書を得た。【結果】 体幹の制限をしない場合には着脱動作の臀部通過時に、頚部屈曲・通過側側屈・回旋、体幹屈曲・通過側側屈、骨盤後傾・非通過側傾斜・回旋運動が共通して起こり、体幹回旋は脱衣の右臀部通過時のみ非通過側回旋を呈した。左右臀部通過時の角度の比較においては、骨盤非通過側側方傾斜角度が、着衣では上部体幹伸展制限で、右臀部通過時に有意に大きく(p<0.05)、脱衣では上部体幹伸展制限、屈曲制限で右臀部通過時に有意に大きく(p<0.05)、その他の条件においても同様の傾向が見られた。着衣と脱衣の比較においては、右臀部通過時における体幹右回旋角度が、上部体幹伸展制限で、着衣が脱衣より有意に大きく(p<0.05)、その他の条件においても同様の傾向が見られた。条件間の比較においては、着衣の体幹の制限がない場合と上部体幹伸展制限を比較すると、体幹通過側回旋が上部体幹伸展制限で左右通過時とも有意に大きく(右通過時はp<0.01、左通過時はp<0.05)、骨盤非通過側側方傾斜角度は上部体幹伸展制限で右臀部通過時が有意に大きかった(p<0.01)。股関節屈曲は体幹の制限がない場合で左右通過時とも有意に大きかった(右通過時はp<0.05、左通過時はp<0.01)。【考察】 着衣時は頭部、体幹とも通過側側屈・回旋し、重心移動による平衡反応を呈した。しかし、脱衣の一側目通過時は、体幹非通過側回旋を呈する傾向があり、この運動は前記の平衡反応とは異なる運動方向であった。次に、骨盤非通過側側方傾斜が一側目通過時に大きい傾向があり、これは下衣のウエストのゴムの伸縮性の影響と考えられた。さらに上部体幹に制限がある場合、上肢の運動が制限され体幹回旋や骨盤側方傾斜による代償が見られた。これらのことから、座位の下衣着脱は平衡反応の誘発に加え、下衣の特性による運動の特徴、体幹の可動性を考慮する必要があり、以下の動作の誘導を考えた。一側目臀部通過のためには骨盤を大きく非通過側に傾斜させる必要があり、それに加え、着衣では体幹の平衡反応を誘発するように体幹を通過側に側屈・回旋させる誘導、脱衣では体幹の通過側側屈と、非通過側へ回旋させるような誘導を考えた。二側目通過のためには、一側目通過後からの重心移動を円滑にするための体幹側屈による誘導と、臀部の挙上に伴って、体幹通過側回旋と骨盤非通過側側方傾斜の運動を付加する誘導を考えた。これらの誘導では、平衡反応や運動の大きさの個人差を考慮することが必要である。【理学療法学研究としての意義】 これまで研究がなされていなかった座位での下衣着脱の運動学的分析を行い誘導方法を検討した。今後下衣の着脱動作の誘導方法の一つとして、臨床応用が期待される。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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