理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
床上排便における体節の運動と筋活動の分析
栗田 宜享高橋 俊章椿原 和也安藤 千春
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キーワード: 排便, 姿勢, 筋活動
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p. Eb1288

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抄録

【はじめに、目的】 近年,寝たきりや加齢から床上で排泄を余儀なくされている高齢者が増加しているとの報告がある。排便に関する先行研究の多くは座位排便を対象としており,床上排便や排便動作の運動学的分析を行っている研究は散見される程度である。そこで本研究の目的は,床上と座位の排便における体節の運動と筋活動を分析し,各肢位の特徴を考察すると共に快適な排便姿勢を検討することである。【方法】 健常男子10名(年齢 21.8±1.5歳,身長 171.7±6.0 cm,体重 62.3±4.2 kg)を対象とし,リクライニング式ベッドのギャッジアップ角度を0°,30°,60°に設定した背臥位と43cm高のポータブルトイレを使用した座位にて5秒間のいきみ動作を1分間の休憩をおいて3回測定した。赤外線反射マーカーを被験者の身体15か所に貼付し,ビデオカメラとデジタルカメラを用いて頸部・体幹の屈伸,骨盤の前後傾,股関節の屈伸・内外転・内外旋,膝関節の屈伸,足関節の底背屈運動を記録した。同時に表面筋電計(プリアンプ:DIA MEDICAL SYSTEM 生体アンプ:BIOTOP 6R12,NEC)を用いて腹直筋上部と下部,内外腹斜筋,腰背筋の各肢位でのいきみ時の筋活動と各筋の最大筋収縮力(MVC)を,Visual Analog Scale(VAS)を用いて座位排便を基準に5段階で各肢位での排便時困難感を測定した。画像は画像解析ソフト(Scion Image)を用いて,各体節のいきみ時の角度からいきみ前の角度を引いた値を変化量として抽出した。筋活動量は各筋のMVCからいきみ時の筋活動量を%最大筋収縮力(%MVC)で表した。統計処理は関節角度と筋活動量の各肢位間の比較には多重比較検定を,それぞれの相関にはSpearmanの順位相関係数を用いた。VASの結果はχ2検定を用いて各群の偏りを比較した。有意水準は5%とし,統計ソフトはSPSSver16を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に本研究における概要を口頭および書面にて説明し,同意文書に自筆の署名を得た。【結果】 座位排便では,いきみ前は被験者の多くが頸部を軽度伸展し,体幹屈曲,骨盤後傾,股関節屈曲・外転・内旋位で足底を床面に接地した姿勢であった。いきみ時の角度は,体幹屈曲,股関節内旋,骨盤前傾,股関節屈曲で各肢位間に有意差が見られた。体幹が屈曲するほど股関節の内旋は減少していき(r=-0.42, p<0.01),ベッド角度が大きくなるほど,股関節は屈曲を強めていく傾向があった。関節角度の変化量は頸部に関して座位はベッド角度0°より有意に大きく(p<0.05),30°と60°より有意に小さくなり (p<0.01),ベッド角度に比例して頸部の変化量は増加する傾向にあった。各肢位における筋活動はベッド上の全ての排便動作において外腹斜筋は座位に比べて有意に大きくなった(p<0.05)。内腹斜筋はベッド角度0°, 30°での筋活動が座位に比べて有意に大きくなった(p<0.05)。排便時困難感の比較は,座位に比べて排便を行いにくい・とても行いにくいという回答が0°では90%,30°,60°では70%を占めており,ベッド角度が増加するに従って,行いにくい・とても行いにくいという答えが減少する傾向にあった。【考察】 床上排便では,ギャッジアップ角度が小さいほど股関節の内旋を強め,ベッド角度が大きくなるほどいきみ時の頸部の屈曲が大きくなった。腹筋群の活動量が床上排便にて座位に比べて増加することやVASの結果から,床上排便は座位に比べていきみづらく,ベッド角度が上がるにつれて排便が楽になると考えられた。座位排便の先行研究同様,本研究でも排便では骨盤の後傾位保持が重要である可能性が示唆された。背臥位は重力の影響から,頭部や体幹はベッドに押し付けられ,運動の固定点となりやすくなる。よって,ベッド上背臥位ではいきみ時の腹筋群の活動が骨盤の過度な後傾を起こし,単に体幹を屈曲する力になりやすいため,足底接地や骨盤の適切な後傾位保持が困難なことが考えられた。骨盤や足部が不安定な床上排便では座位排便のように骨盤や下肢を安定させることが重要であり,床上排便では頭部・股関節の屈曲による骨盤周囲への重心移動や股関節の屈曲・内旋による運動連鎖,足底の接地によるベッド面への荷重によって骨盤の適切な後傾位保持をコントロールすることが重要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 臥位は排便には適さないことが運動学的視点から推察された。また,排便を行うのに適した姿勢が股関節の運動や足部荷重による骨盤後傾位保持であることが示唆され,これは理学療法時の排便の適切な姿勢指導や身体機能改善の指標となると考えられる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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