理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
褥瘡予防に向けた筋収縮が体圧に与える影響
安藤 千春栗田 宜享椿原 和也高橋 俊章
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キーワード: 褥瘡, 体圧, 筋収縮
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p. Eb1289

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抄録

【はじめに、目的】 高齢者において,褥瘡は特に皮下脂肪や筋量が減少している骨突出部に発生しやすく,褥瘡予防には骨突出部の最大値の圧を減少させることが重要であると考えられる。褥瘡予防に対する理学療法の研究としてはポジショニングやシーティング及びADL指導,物理療法等が検討されているが,局所的な除圧のための身体への直接的介入を試みた研究は見当たらない。若年者に比べて高齢者は加齢による筋萎縮により筋量,筋厚が減少しやすいことが報告されている。そのため,筋収縮により筋厚を増加させることが除圧に繋がるのではないかと考えた。  そこで本研究では,座位及び背臥位にて大殿筋の随意的筋収縮を行い,筋収縮が体圧に与える影響を明らかにし,褥瘡予防に対する介入としての有用性を検討した。【方法】 対象は神経学的疾患のない健常女性10名(年齢21.1±1.1歳,身長158.1±4.9 cm,体重53.7±5.0 kg)である。被験者はスパッツを着用し,身体標点として反射マーカーを右側のみ上前腸骨棘・大転子・大腿骨外側上顆に貼付した。プラットフォーム上に体圧分布測定装置(FSA,Vista Medical社製)のセンサマットを敷き,足底接地をしない座位および背臥位にて体圧を計測した。測定は,座位姿勢で安静30秒,大殿筋の筋収縮30秒,安静30秒を1回の計測とし,その間の殿部の体圧最大値,体圧平均値,接触面積,骨盤前後傾角度(矢状面上での上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側上顆のなす角度とし,骨盤前後傾角度の増加は後傾方向への運動と規定する),大転子高(座面から大転子までの距離)を計測した。1分間の休憩中は殿部を除圧し,計3回実施した。背臥位では体圧測定に仙骨部も含め,同様に計測した。  統計処理は,筋収縮前後の体圧,骨盤前後傾角度,大転子高の比較には対応のあるt検定を用い,安静時の体圧と骨盤前後傾角度,及び大転子高の相関には Pearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には実験内容を説明し口頭と書面にて同意を得た。実験には個室を用意した。【結果】 安静時座位では,骨盤前後傾角度の増加に伴い体圧最大値が減少する傾向(r==-0.53),大転子高の増加に伴い体圧最大値が減少する傾向(r=-0.46)があった。座位において,安静時に比べ筋収縮時では面積と体圧最大値が有意に減少(P<0.01)した。また,骨盤前後傾角度(P<0.05)と大転子高(P<0.01)が有意に増加した。背臥位において,安静時に比べて筋収縮時では面積(P<0.01)と体圧最大値(P<0.05)が有意に減少した。また,骨盤前後傾角度と大転子高が有意に増加(P<0.01)した。【考察】 安静座位では,大転子高の高い傾向がある人ほど体圧最大値が低い傾向があり,殿部の軟部組織の厚みがあるほど骨突出部が座面に当たりにくいことがわかった。よって,高齢者では廃用による筋委縮や痩せすぎの予防が重要と考えられ,これは日本褥瘡学会ガイドラインでも推奨されている。加えて,安静座位では骨盤が後傾している傾向がある人ほど最大値が低い傾向があった。これは,坐骨の形状上,坐骨の中でも坐骨結節ではなくより広い面である坐骨体で支持できるようになったことが原因と考えられる。そこで,臨床での座位姿勢を考慮する際,骨盤は坐骨体が支持面となる軽度後傾位が望ましいと考えられた。しかし,高齢者の仙骨座りは,ずれ力を生み出し褥瘡のリスクを高めることが報告されているため,骨盤後傾位とは坐骨体が支持する程度であり,尾骨部ではないことが重要と考えられた。以上の事から,骨盤後傾の傾向,大転子高が高い傾向のある人ほど,体圧最大値が低い可能性が示唆された。筋収縮の介入においては,大殿筋の随意的筋収縮により背臥位と座位共に,安静時に比べ筋厚の増加と骨盤の後傾運動を生じたために,最大値が有意に減少したものと考えられる。背臥位では,体圧最大値を示す部分が仙骨部から大殿筋部に移動したことも加わり,仙骨部の体圧減少に繋がったものと考えられる。以上の事から,定期的に大殿筋の筋収縮を行うことで,仙骨部,座骨部の除圧効果が得られる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 座位及び背臥位にて,骨盤位置と体圧との関係,また筋収縮による骨盤位置と体圧との関係から,徐圧のための筋収縮の有用性が示された。筋収縮練習は,褥瘡予防に対する理学療法的介入として有用である可能性が示唆された。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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