抄録
【はじめに、目的】 地域リハビリテーションは、介護予防の推進や介護サービスの支援、地域医療連携作りを担う立場として制定された(日本リハビリテーション病院・施設協会、2001)が、通所系サービス事業において充足されているとは言い難い。介護系給付費実態調査結果の概況(厚生労働省、H18~H22年度)をみると、年々、各介護度における介護区分の悪化が懸念されている。介護度維持が困難な状況として、平均在院日数削減による介護度の重度化、専従セラピストの配置不足による個別機能訓練加算(2)の算定困難などの影響が考えられる。しかし、現状では介護度悪化における検討は希薄であり、具体的対策を実施するまでには至っていない。今回、全国と比較した当施設の介護認定の状況を比較し、さらに、介護度とサービス利用回数(以下、利用回数)の関連性について検討した。【方法】 対象は、H22年4月~H23年3月までに更新認定(以下、更新)を行った135名とした。内訳は更新前、要支援1(支1):36名、要支援2(支2):23名、要介護1(介1):35名、要介護2(介2):22名、要介護3(介3):13名、要介護4(介4):4名、要介護5(介5):2名であった。更新後は、自立:1名のほか、それぞれ30名、36名、32名、27名、2名、6名、1名であった。全国における更新の内訳は、介護系給付費実態調査結果の概況(厚生労働省、H22年度)から抜粋した。当施設の介護度割合について、改善、維持、悪化の3群に分け、全国と比較した。また、3群を週1回、週2回、週3回以上の利用回数に分類し、各回数について介護度と改善状況を比較した。全国との比較にはMann-Whitneyの検定を使用し、介護度と各利用回数における改善状態の検討にはSpearmanの順位相関係数を使用した。有意水準は危険率5%未満とし、統計処理はStatcel 3 for Windowsを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、医療法人社団新和会倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 全国と比較した当施設の介護区分の変化は、改善群では支2:6.9%、介1:16.9%、介2:46.8%、介3:62.8%、介4:87.3%、介5:40.5%と有意に多かった(p<0.05)。維持群は、支1:-19.6%、支2:-3.3%、介1:-13.6%、介2:-25.0%、介3:-56.6%、介4:-69.7%、介5:-40.5%と有意に少なかった(p<0.05)。悪化群は、支1:19.6%、支2:-3.7%、介1:-3.2%、介2:-21.8%、介3:-6.2%、介4:-17.6%と有意に少ないことから(p<0.05)、維持群の差は改善群への移行による結果と判断した。悪化群において、全国と比較し支1のみ高い割合を示したが、84.2%が支2への移行であった。介護度と各利用回数における改善状況は、週1回、週2回において有意な関連を示した(p<0.05)。週3回は有意な関連は認められないが、各介護度において改善傾向を示した。【考察】 全国と比較し当施設では、更新後の介護区分が改善、もしくは維持へ移行する割合が多い結果となった。特に、改善群に関して介護度が重度になる程、大きな変化を認めた。当施設は、在院日数削減に伴う地域医療の高度化に対応するべく、個別機能訓練を積極的に取り入れている。そのため、要支援者は生活機能の維持、要介護者は改善を目的としたサービスが提供できると考える。しかし、当施設では全国と比較し支1から支2への介護度悪化率が高い傾向を示した。近年の全国における介護度の推移をみると、支1から支2への移行が約2.6倍と増加傾向を示している。要支援とは、継続した介護状態の軽減、もしくは悪化防止の支援が必要な状態と定義されている。その中で支1は、日常生活は送れる能力はある状態、支2は、支1よりもわずかに能力が低下している状態と両者に明確な差がみられない。しかしながら、現行の介護保険制度では、支1は週1回程度、支2は週2回程度のサービス受給可能とされ、身体機能と利用回数の不等さが伺える。本研究においても、支1は悪化群が多く、支2は維持群が多い傾向を示した。これは、活動性の高い要支援者の機能維持、改善には少なくても週2回程度のサービス提供の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 近年の全国における要介護状態の悪化について、要因を分析する必要性があった。本研究では、介護度維持に必要な一要因として利用回数との関連性が示唆された。同時に、本研究は地域リハビリにおいて理学療法士が中核的存在として確立していく一助となると考える。