理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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下肢挙上の高さが仙骨部接触圧に及ぼす影響について
伊東 孝洋
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p. Eb1290

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抄録
【はじめに、目的】 臨床においては踵部の褥瘡予防を目的としてクッション等を用いて下肢挙上を行うことがあるが、過度な下肢挙上により仙骨部に褥瘡を発症する事例が存在する。また先行研究において膝関節拘縮は仙骨部や踵部に対する褥瘡発生リスクを高める要因の一つとされている。以前から褥瘡予防を目的とした背臥位や30°側臥位などの体位と仙骨部接触圧との関係や膝関節の拘縮が仙骨部接触圧にどのような影響を及ぼすか調査した研究はよく行われている。しかし下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関連については検討されていない。本研究の目的は踵部の褥瘡予防を目的とした下肢挙上の高さが、仙骨部の接触圧にどのような影響を及ぼすか明らかにすることである。【方法】 対象者は20歳から35歳までの健常な成人男性で、BMIが18.5以上25未満のものを対象とした。対象者の仙骨部接触圧をニッタ社製Body Pressure Measurement Systemを用いて測定を行った。ベットはパラマウント社製KA-4000を用い、マットレスはケープ社製アイリス2を使用した。下肢挙上の高さはマットレスから踵部までの距離が0cm、1cm、5cm、10cm、15cm、20cmにおける仙骨部接触圧を測定した。測定は1分間の安静後20秒間に1回、計3回測定し平均値を仙骨部接触圧とした。下肢挙上材料は1cmはバスタオルを折り重ねたものを使用。5cmは一般に病院で使用している体圧分散能力のない高さ5cmの足枕を使用。10cm以上は下層に体圧分散能力のない高さ5cmのニシスポーツ社製バランスパッドを用いて調整し、上層は体圧分散能力のない高さ5cmの足枕を使用した。なお下肢挙上時は両下肢を挙上した。また測定において下肢挙上の高さの順番はランダムに設定した。統計分析はExcel統計2006を用いFriedman検定を行い、多重比較はScheffeの方法を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は愛媛大学大学院医学系研究科看護学専攻研究倫理審査委員会の承認を受け、研究への参加は対象者の自由意志にて行い、書面による同意を得て行った。また個人情報の取り扱いについては 氏名についてはコード化し外部に情報流出がないよう十分に留意した。【結果】 本研究に参加した対象者は15名であった。平均年齢は28.6±4.56歳、平均BMIは22.4±1.98であった。下肢挙上時における仙骨部接触圧は0cm50.44±12.55mmHg、1cm56.63±13.4mmHg、5cm53.24±10.96mmHg、10cm61.33±13.76mmHg、15cm62.87±12.84mmHg、20cm67.71±15.98mmHgであった。Friedman検定において有意差が認められ(P=0.01)、Scheffe法により下肢挙上0cmは10cm、15cm、20cmにおいて有意差が認められた。(P=0.01)【考察】 今回の研究から下肢挙上0cmと比較して下肢挙上10cm以上において仙骨部接触圧が有意に増加した。その理由としては下肢挙上により接触面積の減少によって仙骨部接触圧が増加したことが考えられる。また小川らは骨盤大腿リズムにおいて、大腿挙上運動により骨盤の後傾が生じることを明らかにしていることから、下肢挙上により骨盤が後傾し、結果として仙骨部接触圧は増加した可能性も考えられる。今回は対象者が健常な成人男性であったが、軟部組織の少ない高齢者や関節拘縮を有する対象者においては、下肢挙上において仙骨部接触圧が大きく増加し、またはわずかな下肢挙上において仙骨部接触圧が増加し容易に仙骨部に褥瘡が生じる可能性も考えられるため、今後はBMI18.5以下の対象者や関節拘縮が下肢挙上と仙骨部接触圧にどのような影響を与えるか検討する必要があると思われる。 【理学療法学研究としての意義】 下肢挙上は血圧低下時や整形外科手術前後などで行われる姿勢であり、臨床においてよく行われる姿勢である。下肢挙上の高さが仙骨部接触圧に及ぼす影響を明らかにすることで、仙骨部の褥瘡予防を図る知見が得られる可能性があり、本研究を行う意義は大きいと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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