抄録
【はじめに、目的】 平成18年度より、介護保険制度が大きく見直され、予防重視型へのシステム転換がなされた。また、要支援・介護度への移行が予測される虚弱高齢者へ早い段階から適切なサービス提供を行い自立支援と、重度化を防ぐ水際作戦とし、「介護予防特定高齢者施策」(H22年8月6日厚生労働省告示より「二次予防事業」へと名称変更となる)も開始された。本研究は、鹿児島市における平成21年度介護予防特定高齢者施策の、疫学的調査とアンケート調査である。分析の目的は、事業効果の判定である。【方法】 対象はH21年度事業参加者のうち、事業所より鹿児島市へ提出されたファイル232件(平均年齢、76.7±5.9yrs)。運動介入は週2回計24回の3ヶ月間である。分析項目は、事業参加前後に聴取された、基本チェックリストと体力測定項目の握力、ファンクショナルリーチ、Timed up & goテスト、通常5m歩行、最大5m歩行、開眼片脚立ち、生活や精神面についての9項目のアンケート調査である。さらに、事業参加者を対象にH22年4月一斉に行われたアンケート調査である。分析方法において、体力測定項目はT検定にて、基本チェックリストとアンケート調査はwilcoxsonの順位和検定にて参加前後の比較を行う。【倫理的配慮、説明と同意】 当研究は鹿児島市から委託を受け、鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等に関する倫理審査委員会の審査により認定を受けた研究である。ファイルは被験者の個人情報に配慮し、連結可能匿名化され、受講者には事前に調査の説明と同意を得たものである。【結果】 体力測定値においては、全ての項目において改善を示す有意差(P<0.01)を認めた。基本チェックリストにおいては、運動器の機能、口腔機能、閉じこもり、うつの項目において改善を示す有意差(P<0.05)を認めた。さらに、生活や精神面のアンケート調査においては、主観的健康感、生活の満足度、睡眠、ストレス解消、生きがい、運動習慣において改善を示す有意差(P<0.05)を認めた。また、事業終了後の追跡調査において、93%は介護度がない状態であり、4%は要支援1、2%が要支援2へ移行していた。主観的健康感は参加前に聴取された同じパーセンテージの割合へ戻り、外出の頻度は参加前と同じ又は低下傾向にあることが伺えた。さらに運動習慣においては、1日30分以上、週5回以上の運動を実行されている方は、224件の内1名のみであった。【考察】 事業参加後の改善が多くの評価項目において見られたが、1年後のH22年4月一斉に聴取した調査データより、生活不活性状態の脱却と健康維持に必要と考えられる運動習慣の獲得までには、至っていないことを危惧する。事業が終了し、生活不活性状態へと返れば、すぐに虚弱状態へと舞い戻り、事業効果は一時的なものとなってしまう。今後の事業の展開として、事業終了後も自活した健康増進への努力と生活不活性状態の脱却を目標に、参加高齢者、事業所指導者、行政がより統一された指標において、事業への取り組みの重要性を感じた。そのため、参加高齢者・事業所指導者・行政が簡易的に分かりやすいアウトカム指標として、精神的・身体的・実生活の活動量の包括的健康評価を提案する。【理学療法学研究としての意義】 超高齢化社会に突入し、今後も高齢化率は上昇傾向にある日本にとって、継続可能な社会保障制度の確立は大きな課題である。全体の7割を占めるとされる高齢者関係の社会保障給付において、日本国民であり、健康に対する専門領域である職種としてどのような関わりができるかを研究することは、大きな意味があると考える。また、行政と現場の実情を知る職種が共同し、より効果的事業展開へと努め、国民の健康意識を高めることが、私たちにできる大きな社会貢献に繋がると考える。