理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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『特許取得』ウォーキング用杖の開発経緯と今後の展望
石間伏 勝博大浦 由紀
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p. Ed0823

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抄録
【はじめに、目的】 近年、健康増進や介護予防の取り組みとしてノルディックウォークが注目されている。ノルディックウォークで使用する杖は一般的に直線形で、比較的に元気な方が使用の対象となっている。虚弱な高齢者や障害者が使用してもウォーキングを楽しめるように、形状に改良を加えた「ウォーキング用杖」を開発し、「特許権」「意匠権」の知的財産権を取得することが出来た。また、ウォーキング用杖を使用した「ウォーキング事業」を具現化するために、神戸市産業振興センターの「ドリームキャッチプロジェクト」へ事業企画を応募し、公的機関による認定を得ることが出来た。今回はウォーキング用杖の開発に至る経緯と、今後の展望について報告する。【方法】 ウォーキング用杖の開発の参考とするために、20~45歳の成人男女15名の(身長)・(床-肘の高さ)・(前腕+拳の長さ)・(前腕-シャフトの角度)・(静止立位から自然な一歩目を出したときの歩幅と前腕+拳の長さの関係)の5項目について身体計測を行った。知的財産権の取得に関しては、平成20年11月から特許流通促進事業の特許情報活用支援アドバイザー派遣事業を利用し、特許権・意匠権の調査および書類の自筆に関する支援を受けた。公的機関による事業企画の認定は、平成22年10月の第13回ドリームキャッチプロジェクトへ「アクティブ・ウォーキング」として応募した。【倫理的配慮、説明と同意】 身体計測の対象者には、ウォーキング用杖の開発の参考にすることを説明し、計測協力に関する同意を得た。【結果】 (身長)・(床-肘の高さ)、(身長)・(前腕+拳の長さ)には比例の関係があることを確認した。(身長)140cmに対して(床-肘の高さ)85cm、(身長)180cmに対して(床-肘の高さ)110cm、シャフトの伸縮幅を25cm設けることの参考とした。(前腕-シャフトの角度)は前腕水平位で手首は橈尺屈中間位でグリップを持ったときに前腕水平位の垂線に対してグリップは約15度前方へ傾くことを確認した。(身長)・(前腕+拳の長さ)・(静止立位から自然な一歩目を出したときの歩幅と前腕+拳の長さの関係)の3項目から、自然な一歩目は身長に関わらず(前腕+拳の長さ)に定数を加えた長さになることを確認し、定数は約10cmであることが確認できた。知的財産権は平成22年6月「特許第4524766号」、平成23年2月「意匠登録第1410085号」として取得することが出来た。第13回ドリームキャッチプロジェクトでは平成23年1月に「N-KOBE」の認定を受けることが出来た。【考察】 直線形の杖を使用したノルディックウォークは、肘の伸展運動により上腕の活動を高めることが特徴とされている。そのため、体重支持を目的として使用する場合は、手首を橈屈して使用するか、肘を90度より深く曲げて使用することとなり、結果として手首に対する負担が生じたり、腕の振りを阻害することになる。この点を改良するために、杖全体の構成はシャフトの主軸に対してグリップ部とシャフト下端部を進行方向へ屈曲を設け、「弓なり状」のウォーキング用杖を開発することとなった。ウォーキング用杖は体重支持の際に手首へ生じる負担が少なく、ウォーキングの腕を振るフォームは平坦な路面はもちろん坂道の昇降においても肘の屈曲90度を維持することが可能である。ウォーキング用杖はユニバーサルデザインであるため、虚弱な高齢者や片麻痺の方でも使用することが可能である。ウォーキング用杖を通じた事業として「アクティブ・ウォーキング」を企画し、「歩き方指導」「ウォーキングイベント開催」「指導者養成講座」を実行していきたい。理学療法士の専門性として「歩く」にこだわることは非常に重要なことであると考えている。高齢化が進む日本社会において、「健康増進」「介護予防」「参加型リハビリテーション」をキーワードに新たなサービス展開を模索していきたい。【理学療法学研究としての意義】 ウォーキング用杖を開発することで、「歩く」ことへの新たな挑戦のきっかけを得たと考えている。現在は試作の段階であるが、形状に関する精査およびウォーキングの有効性を追跡調査し、理学療法士の臨床から生まれた製品やサービスとして新たな市場化を進めていきたい。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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