理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法士による介護福祉士を対象とした「介護予防体操研修会」の取り組み
小貫 葉子皆川 花野有賀 裕記梅田 亜希子椎名 真希大森 葉子大田 仁史
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p. Ed0822

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抄録
【はじめに、目的】 理学療法士(以下:PT)が取り組むべき介護予防は、転倒予防や筋力向上トレーニングだけでなく、要介護者の介護重症化の予防、介護が困難となる状態の予防など多岐に亘る。しかし、介護場面において、PTだけで介護予防を行うことは難しく、介護福祉士との協働は不可欠で、医療・介護双方からのアプローチが必要となるはずである。茨城県では平成21年度より、介護福祉士が介護予防に役立つ体操とその基礎知識と技術を習得し、日常業務に生かし高齢者の介護予防を図ることを目的とした介護予防体操研修会(以下:研修会)を実施している。今回、介護予防における研修会カリキュラムの評価と介護福祉士への関わり方など、PTの役割を検討した。【方法】 研修会は、茨城県内の介護福祉士が対象で、講義、実技、演習等5日間計28.5時間。県が介護予防事業として推進している介護予防体操の実技指導の他、体操を行う上で基礎知識となる解剖運動学やトレーニング理論、介護予防に関する講義、グループワーク等を含んだ時間割としている。平成22年に研修会を受講した介護福祉士を対象に、研修会で提出を課した受講生のレポートとアンケートを集計し、カリキュラムの評価と介護福祉士へのPTの役割を検討した。レポートでは、各講義の「難易度」と「日常業務に役立つか」について5段階評価と自由記載を求めた。また、研修会終了1ヵ月後に職場での体操の活用や、職員への普及状況と業務遂行の意識変化についてアンケートを行った。【倫理的配慮、説明と同意】 受講生全員に、レポートは個人の理解度や能力を特定するものではなく、全体の理解度や講義の難易度、業務への有用性の把握、今後の研修会改善のために使用する趣旨を説明、了解を得た。【結果】 受講生内訳、計111名(男性:45名、女性66名)年齢21~67歳、経験年数11ヶ月~15年。講義の難易度で「とても難しい」の評価が多かった講義は、「神経(35%)」「トレーニング理論(34%)」また「易しい」の評価はほとんどの講義で10%以下。講義が「日常業務に役立つか」では、全講義で「役立つ」以上が80%超。特に、「嚥下障害」と体操の演習を行う「実指導の進め方」は90%以上。全講義で「役立たない」の評価は4%以下、研修会全体では95%が「十分役立つ」や「役立つ」と評価した。 自由記載は、「介護福祉士の仕事への意欲や自信の増加に関する内容」「医療や他職種との連携、体操や病状の理解度の向上に関する内容」「研修会後のフォローアップの要望に関する内容」等に大別できた。研修終了後アンケート(回答数97人)では、「利用者へ体操指導を行った(91%)」、「伝達講習や勉強会を行った(67%)」、「研修会終了後、日常業務に活かされたと感じること」については「介護予防の観点から介護を行うようになった」「利用者の体の動きがよくわかるようになった」「体操の目的がよくわるようになった」が各18%、「今後、介護職が介護予防体操を活用するには何が必要か?」の問いには「体操指導の技術向上(14%)」、「リハビリテーションに関する知識(13%)」、「指導者の数(13%)」であった。【考察】 研修会内容は、「役立つ」以上が全講義で70%以上、研修会全体で95%であったこと、研修会受講後の体操指導状況、介護予防の観点で業務が遂行されていることなどから、研修会は介護福祉士の業務に役立つ内容であり、更には、介護福祉士の自信の増加、介護保険利用者へのサービスの質の向上に効果があると考えられる。講義の難易度が「易しい」と評価されなかったことから,解剖運動学の内容はPTがカルテや業務中に多用している用語にも関わらず、介護福祉士はその説明や講義を受ける機会が少なく、正確な情報の共有ができていない可能性が高いと考えれ、PTはその点を踏まえて関わることや説明方法を配慮する必要があることがわかった。介護福祉士が動作学・障害学から考案された介護予防体操とその基礎知識を習得し、業務の中で実践できるということが分かり、介護予防の一翼を担うことができることが示された。また、介護予防体操を1つのツールとし、PTの持つリハビリテーションに関する知識や技術を介護福祉士に伝えることは、介護福祉士が日常業務の中で介護予防に参画する機会を増やし,医療・介護の双方から介護予防に取り組む環境を作り出すことに繋がることがわかった。【理学療法学研究としての意義】 PTの専門性が周辺領域の介護分野にどう関われるのか、を検討した報告は少ないが、PTの技術や知識の中には、介護福祉士の業務に役立つことも多く、介護福祉士に介護予防やリハビリテーションの理論・技術を伝えることで、より的確な介護が提供できるようになることがわかり、本研究は介護予防におけるPTの新たな役割の検討として有用である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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