理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

テーマ演題 ポスター
地域活動を通して考える転倒予防
鈴木 裕之石田 隆坂本 宗樹田沼 亮子大前 圭裕
著者情報
キーワード: 高齢者, 転倒予防, 地域活動
会議録・要旨集 フリー

p. Ed0830

詳細
抄録
【はじめに、目的】 日本における高齢化は世界的に例をみないスピードで進んでいる。国立社会保障・人工研究所によれば2013年には全人口の約25%が、2050年には約40%が65歳以上の高齢者になると示されている。この高齢社会において要介護者の増加は社会問題となっている。要介護者の増加を抑える為、障害を有する者の治療だけでなく、障害を有しない者に対する健康増進・予防医学の必要性が強く訴えられている。要介護者となる3大要因の一つに『転倒・骨折』があげられ、転倒予防は介護予防の重要な課題となっている。今回、地域活動を通して得られた対象者の身体機能検査結果と問診結果より、地域活動における転倒予防での評価について再考した。【方法】 2011年に開催された地域健康づくり活動に参加した40歳以上の女性108人を対象とした。平均年齢は66.4歳(42-85歳)であった。対象者に簡易的な身体機能検査と問診を実施した。身体機能検査は2ステップテスト(以下2step)、Functional Reach Test(以下FRT)、簡易的なWeight Bearing Index測定(以下WBI)の3項目を実施した。身体機能検査に先立ち、対象者には各項目における予測値を申告させた。身体機能検査の実測値と予測値の差を予測誤差として算出した。また問診にて、1年以内の転倒歴と運動習慣を調査した。それらをもとに、年齢を中年期(40歳~64歳)、高年期(65歳以上)、前期高齢期(65歳~74歳)、後期高齢期(75歳以上)の4群に別け年齢による比較を行った。また1年以内の転倒歴をあり・なしの2群にわけ、転倒に繋がる因子を調べた。統計解析は、統計ソフトSPSS16.0を用いて行い、統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】 事前に本研究に対する説明を行い、同意を書面にて得た。【結果】 1)年齢による比較:加齢に伴い、2step、FRT、WBIの実測値は有意(p<0.05)に減少を認めた。しかし、2step、FRT、WBIの予測誤差において有意差は認められなかった。また、転倒歴のあるものは有意に増加し、運動習慣のあるものは有意に増加した。2)転倒歴の群間比較:身体機能検査は中年期ではFRTにおいて、高齢期ではWBIにおいて転倒歴なし群に比べ、あり群で有意(p<0.05)な低値を認めた。しかし、その他の身体機能検査の項目では有意差は認められなかった。2step、FRT、WBIの予測誤差においても有意差は認められなかった。また、転倒歴と運動習慣の間に相関は認められなかった。【考察】 身体機能検査に用いた項目は、高齢者の運動機能を測る指標として、転倒との関連性が高い事から転倒予測の指標として用いられている。身体機能の予測誤差も加齢により変化するとされ、転倒を予測する指標として用いられている。また運動習慣の有無も転倒との関係性が示されている。しかし、今回の結果は、諸家らの報告とは一部異なるものとなった。1)年齢による比較:加齢により身体機能は低下し、転倒歴にも増加がみられた。しかし、身体機能の予測誤差は加齢による差はみられなかった。身体機能の予測誤差は若年者と高齢者を比較した場合は加齢の指標となりえるが、中年期以降の者のみを対象とした場合の微細な加齢変化は捉えることが出来ないと考えられた。2)転倒歴の群間比較:転倒歴に関連する要因として中年期ではバランス能力、高年期では筋力の低下が考えられた。しかし、その他の身体機能検査項目、予測誤差、運動習慣は転倒歴とは関連するとは言えなかった。これは、対象とした群が一般高齢者とは異なる属性がある為と考えられた。対象は地域健康づくり活動に参加した者であり、活動に参加するだけの身体機能を持ち合わせ、健康増進に対しても自ら行動を起こしているという属性を持っている。この様な者に対する転倒予防は従来の一般高齢者を対象とした内容では不十分である事が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 高齢者の転倒は様々な因子が組み合わさって起きている。この研究を通して、広く地域活動で転倒予防として用いられている内容に再考が必要なことが示唆された。よって、今後は地域活動に参加する健康意識の高い集団の転倒予防にも繋がる評価法、運動指導法の開発が必要となる。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top