理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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「泉北ほっとけないネットワーク・新近隣住区」地域再生における理学療法士の取り組み
高井 逸史樋口 由美上田 哲也春木 敏森 一彦
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キーワード: 高齢者, 地域再生, 生活支援
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p. Ed0831

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抄録
【はじめに、目的】 近年、理学療法士(以下PT)がリハビリテーション医療の枠を超え保健、予防、健康増進分野での活動が報告されている。介護予防事業を考えると高齢者の生きがい形成を目的としている以上、保険制度下の医療・介護サービスといったこれまでのフォーマルなサービス内容では十分とは言えない。また、介護保険などの制度ではカバーされにくい見守りが必要な独居高齢者や虚弱高齢者らが住み慣れた地域で安心して生活を営むには、近隣による見守り・緊急時対応や住民らによるレストラン運営など、近隣資源を新たに構築する必要がある。今回われわれPTは国土交通省の地域再生推進事業に参画し取り組んできた活動内容と現状課題について報告する。【方法】 国土交通省の高齢者等居住安定化推進事業である「泉北ほっとけないネットワーク・新近隣住区」(以下「泉北ほっとけない」)とはNPO、自治会、大学、行政、福祉機関が連携し地元の人的・物的資源を有効活用することで高齢者が安心し健康な生活を営むための支援の仕組みを新たに構築することを目的としている。「泉北ほっとけない」の推進本部には大阪市立大の住居計画系と食物栄養系の研究室が担っており、大阪府立大学も共同で効果検証やエビデンスの蓄積に携わっている。対象となる地域は大阪府堺市泉北ニュータンにある槇塚台地区であり人口7,000人、高齢者2,160人(高齢化率31%、平成23年7月現在)がその対象となる。【倫理的配慮、説明と同意】 自治会や回覧板などにより「泉北ほっとけない」の概要を住民に説明し、関連する研究会や取り組み内容、介入研究の結果など広く公表することついて同意は得られている。【結果】 平成22年11月より「泉北ほっとけない」推進協議会が発足し3部会から構成される。各部会の運営内容とPTの取り組みについて以下述べる。1.食健康サポート部会:平成23年5月より近隣住区内に飲食店がないため外出困難な高齢者などを対象に配食サービスを実施。配食弁当のメニューはすべて管理栄養士による栄養価が考慮されている。PTの取り組みについて平成23年6月より近隣デイサービスセンターの協力のもと要介護高齢者を対象に握力、歩行速度、バランス能力などの体力測定を実施し介護予防を目的とした運動指導を週1回実施。さらに平成23年10月より高齢者の栄養状態や健康状態の改善、循環器疾患や糖尿病合併症の二次予防を目的とした介入研究が進められている。対象群では塩分や脂肪を抑えた弁当を高齢者が喫食し、食習慣と運動行動の改善を促す介護予防プログラムTAKE10!を毎日実施。この介入研究ではPTは運動内容を対象群全員で実施し、PTが確認し個別指導を行う。二次予防につながる日常生活の過ごし方なども助言・指導する。2.安心居住サポート部会:情報端末を使用した見守り体制を構築する。平成23年10月より高齢者を対象とした情報端末(iPad)の実証実験が行われており、その日の体調、天気、食事内容などWEB上で6項目を操作し健康管理を支援する。将来的には情報端末を使った緊急時の対応など見守り支援システムを構築する。PTは虚弱高齢者、要介護高齢者の在宅における問題点を医療・介護・生活の視点で提案・助言する役割を担っている。3.住環境整備部会:空き店舗を活用した地域レストラン開設、公営住宅の空き住戸を活用したサポート付改修住宅を提供する。地域レストラン内の障害者用トイレを考案するにあたり、PTは介護動作や車椅子移動の軌跡を考慮したスペースのあり方、伝い歩きなどを支援する手を置く台の形状や検討し提案した(平成23年10月末にレストラン開設)。【考察】 「泉北ほっとけない」とはこれまでの行政主導による街づくりではなく、住民による配食サービスの実施や空き店舗を利用した地域レストラン設置など、地域住民らが自分たちに必要と思われるサービスを出し合い行政・大学等の支援を受け、地域再生を協議し推し進めている。本事業におけるPTの役割は、要介護高齢者に対する介護予防や歩行や動作を支援する住まい環境改善への提案、疾病や障害の有無に関係なく運動器系や循環器系の二次予防など高齢者の生活支援全般を担っている。われわれPTが地域再生に参画するには治療を中心とした医療モデルを地域にはてはめるのではなく、見守りをはじめ外出意欲、社会的役割など個々の生活支援にいかに貢献できるか再考しなければいけない。【理学療法学研究としての意義】 理学療法の対象は要介護高齢者に対する介護予防をはじめ介護保険でカバーしにくい見守りが必要な独居高齢者や虚弱高齢者などを対象に疾病予防や健康増進を担う役割が今後一層求められている。この分野におけるPTの効果を検証するため介入研究を実施し、エビデンスに基づくデータの蓄積を行うことが今後の課題である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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