抄録
【はじめに、目的】 これまで筆者らは産科への理学療法士の介入の第1報として,妊婦の腰痛における姿勢や動作との関係(第37回四国理学療法士学会)を報告した.第2報は,妊娠中に腰痛を発症した場合の妊娠期別における姿勢や動作におよぼす影響(第3回四国リハビリテーション学院同窓会学術会)について報告した.今回それらを踏まえ,妊娠前に腰痛の既往がある場合の妊娠前期~中期の母親学級(以下,前期母親学級)への参加が,妊娠中期以降の腰痛にどのような影響を与えたかについてアンケートを基に検討したので報告する.【方法】 対象は,平成21年3月~同年9月および平成23年4月~同年10月に,個人産院1院で行った月1回の妊娠中期~後期の母親学級(以下,中期母親学級)参加者114名中,アンケート内容に不備のない101名(有効回答率88.6%)とした.方法は,母親学級の最後にアンケート記入時点での腰痛の有無(有の場合は以下,有腰痛者),程度(以下,現VAS),妊娠前における腰痛の既往,程度(以下,前VAS),前期母親学級への参加の有無などをアンケート調査した.そして,妊娠前に腰痛の既往のあった34名(33.7%)を抽出した.その後,前期母親学級への参加の有無で参加群と不参加群に分け,群間ならびに群内での疼痛の程度について統計学的な有意水準を5%未満とし,t-検定を用いて分析した.【倫理的配慮、説明と同意】 参加者には,事前にアンケートの趣旨ならびに当社規定に則った個人情報の保護に努める旨の説明を行った.その内容に同意できた場合のみアンケート記入してもらい,今回の報告における同意も得ている.【結果】 対象の平均年齢は29.3±4.4歳,平均身長は158.3±5.5cm,平均体重は56.5±7.8kg,平均BMIは22.5±2.6,平均妊娠週は26.4±3.6週,有腰痛者は42名41.6%,平均現VASは4.6±2.1,平均前VASは,4.5±2.2,前期母親学級参加者は46名45.5%であった.妊娠前に腰痛の既往のあった34名の平均年齢は30.6±4.4歳,平均身長は159.5±5.4cm,平均体重は59.0±8.5kg,平均BMIは23.2±3.2,平均妊娠週は26.4±3.7週,有腰痛者は25名24.8%,前期母親学級参加者は16名15.8%であった.参加群の平均年齢は32.6±3.6であり,平均身長は158.5±4.8cm,平均体重は57.5±8.5kg,平均BMIは22.8±2.9,平均妊娠週は25.1±3.7週であった.また,有腰痛者は11名10.9%であり,平均現VASは4.1±3.1,平均前VASは5.8±2.1であった.不参加群の平均年齢は29.4±4.8であり,平均身長は160.4±5.8cm,平均体重は60.3±8.5kg,平均BMIは23.5±3.4,平均妊娠週は27.5±3.4週であった.また,有腰痛者は14名13.9%であり,平均現VASは3.3±2.7,平均前VASは,3.3±1.5であった.疼痛の程度は,両群間での前VASに有意差が認められた.両群間での現VAS,参加群内での現VASと前VASでは有意差は認められなかった.不参加群内での現VASと前VASでも有意差は認められなかったが,現VASの改善傾向(P=0.09)がみられた.【考察】 妊娠中の腰痛における原因の多くが姿勢性のものであり,妊娠中期からの発症が多いとされている.すなわち,妊娠20週付近から始まるとされている腹部の膨らみに伴う代償的姿勢制御が始まる前の前期から理学療法士が介入することで,姿勢や運動方法などの指導を行い腰痛の発症予防できるのではないか,発症したとしても疼痛の程度が軽度になるのではないかと考えた.本研究では,不参加群の前VASと現VASに有意差は認められなかった.参加群の前VASと現VASにも有意差は認められなかったが,改善傾向はみられた.両群間の差では前VASに有意差が認められたものが,現VASでは有意差がなくなっていた.これは,参加群の現VASが改善傾向であったこともあわせ,前期母親学級に参加することによって参加者の良姿勢への意識や指導された運動を少しでも行っており,疼痛の程度における悪化を防ぐことができたのではないかと推測した.すなわち,妊娠10週までのリスクを伴う不安定な時期に配慮しつつ,妊娠前期から理学療法士が介入し姿勢指導や運動指導を行うことにより,妊娠中における腰痛の発症や程度を抑えられるのではないかと考えた.【理学療法学研究としての意義】 妊娠期は,半数以上の妊婦に腰痛が出現するが,本邦において理学療法士の介入による報告は少ない.すなわち,理学療法士が産科領域への介入することへの意義として本研究は有用であると考える.