理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法士の新たな可能性、和装を主軸としての提案
下曽山 香織
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p. Ed1470

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抄録
【はじめに、目的】 和装は、着物を着付け、帯結びを行う一連の動作にて成立し、美しさと独創性を併せ持つ日本の伝統正装である。この和装の中でも結帯動作は、上肢を用いて長い帯を体幹後面にて複雑に操作する技術が求められる。主宰する着物学校において、肩関節周囲炎により結帯動作が困難な女性に対して、着付けの稽古に入る前に、理学療法士による肩関節可動域測定を行い、その可動域範囲内で無理なく着付けられる帯結び方法の選択、提案を行っている。その中で、稽古後の学生の肩関節可動域が改善したことを経験した。ここから、和装と理学療法との関わりを探ることで、理学療法士の新たな可能性が見出せるのではないかと考えた。本研究は、背面で帯を締める動作に着目し、和装が肩関節可動域に及ぼす影響を明らかにすることが目的である。【方法】 対象は、肩関節及び胸腰椎疾患の既往のない20代女性とし、日常的に和装する女性(和装群)と和装しない女性(西洋装群)各15名、合計30名である。和装群は、自分で着物を身に付け、西洋装群は着付師の口頭指示を受けながら自ら着付けを施した。両群共に、和装前後に肩関節可動域及び指椎間距離測定を実施した。統計学的検定には、符号検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に沿い実施した。全ての対象者に、研究の目的、内容の説明を口頭と書面にて行い、同意を得た上で研究を進めた。また、今結果の公開についての許可を得ている。【結果】 和装前において、和装群の肩関節伸展、内旋角度は、西洋装群と比べ有意に拡大しており(P<0.05)、指椎間距離は有意に縮小していた(P<0.05)。肩関節屈曲、外転、内転、外旋角度に有意差は見られなかった。また和装後において、両群とも肩関節伸展、内転、外旋、内旋角度が有意に拡大し(P<0.05)、指椎間距離の縮小が確認された(P<0.05)。肩関節屈曲、外転角度に有意差は見られなかった。【考察】 和装は、着物を着て帯を締める仕様となっている。一般的な帯結びは、長さ約3mの帯を第7胸椎から第3腰椎付近の範囲で体幹を囲むように巻きつけ、背面にて小道具を使用し、形作った上で固定する。この帯結びに要する動作を詳しく述べると、帯を体幹後面にて左手から右手へ手渡すこと2回、体幹後面にて左右手で帯を結ぶこと1回、体幹後面にて左右手で小道具を第7胸椎以上の高さに持ち上げること2回、その小道具の紐や帯付属品を左右手で体幹後面から前面に向かって引き寄せた後に第7胸椎から第3腰椎付近の高さで結ぶこと4回であった。今回の結果より、この帯結びの一連の動作は、肩関節伸展、内転、外旋、内旋運動を必要としており、和装を行うことで、肩関節可動域拡大の即時効果を得られることが示唆された。また、和装を日常的に行うことは、肩関節可動域運動を自主的に行うに等しいと考えられる。帯結びは数百の種類があるとされ、その方法は様々である。当校では、理学療法士が理学療法学的視点から和装を捉えたことにより、身体状況に沿った帯結びの選択が可能となり、身体に愁訴を持つ者であっても和装技術向上を目指すことが出来ている。理学療法士の技術や知識は医療、福祉分野に留まらず、あらゆる分野において、その能力を発揮する可能性があると言える。日本文化継承の場においても、理学療法士が介入することで、和装技術向上のみならず、疾病予防、健康増進に繋がるものとして、幅広く和装が受け入れられ、日本伝統文化の更なる発展が期待できると考える。【理学療法学研究としての意義】 日本の民族衣装は、伝統文化の継承のみならず、理学療法士が介入することで肩疾病予防や日常的に取り入れることで健康増進にも繋がる可能性があり、将来、理学療法士が参入するに相応しい場の一つであることが提示出来た。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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