理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
社会とのかかわりが移動能力の推移に及ぼす効果
─60歳代地域住民の12年間追跡研究─
澤田 優子金尾 顕郎篠原 亮次杉澤 悠圭安梅 勅江伊藤 澄雄
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p. Ee0060

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抄録
【目的】 60歳代地域住民の12年間5時点のデータを用いて移動能力の軌跡の分類およびそれに対する社会とのかかわりの影響を明らかにする.【方法】 対象は,大都市近郊農村の地域住民60歳以上70歳未満307名(男性136名,女性171名,平均年齢64.4±2.9歳)とした.基準年は1996年とし,1998年,2002年,2005年,2008年に追跡調査を実施した.調査項目は年齢,性別,疾患,移動能力,社会とのかかわりであった.疾患は,高血圧症,糖尿病,心臓病,骨関節疾患のいずれかに「あり」と回答したものを「疾患あり」とした.移動能力は,歩行,階段昇降の2項目とした.社会とのかかわりは地域社会の中で人間と環境とのかかわりの量的側面を測定する指標である「社会関連性指標」を用いた(18点満点).分析は,潜在クラス付き成長曲線モデルを使用し,歩行,階段昇降の12年間の経時的な変化の軌跡とそのクラス分類を行った.分類グループの人数が10%を下回らず(歩行は1~3グループ,階段昇降は1~4グループまで検討),かつベイズ情報基準量 (Bayesian Information Criterion : 以下BIC)の負の値が小さい場合の分類数を採用した.また,社会とのかかわりの有無を説明変数,年齢,性別,疾患を調整変数とした多変量モデルを設定し,基準年の社会関連性の各移動能力軌跡への関連及び影響を検討した(PC版SAS統計パッケージver.9.1,有意水準は5%).【説明と同意】 本研究の目的と内容について調査実施前に自治体保健福祉課を通じて参加者に通知した.調査対象者には調査の参加について調査への参加・不参加は自由であること,参加しなくても不利益はないこと,データは匿名性を確保した上で分析することを説明し,本人より了解を得た(筑波大学研究倫理審査委員会承認番号456).【結果】 歩行軌跡は基準年に自立に近い状態から低下するグループ(歩行低下グループ91名29.6%)と基準年から自立を維持し続けるグループ(歩行自立維持グループ216名70.4%)の2つのグループに分類することができた(BICは-644.6).階段昇降軌跡は,基準年から低下した状態で,経過とともに低下するグループ(階段昇降非自立低下グループ95名,30.9%)と,基準年には自立しており,時間経過とともに少しずつ低下するグループ(階段昇降低下グループ126名,41.0%),基準年から自立を維持し続けるグループ(階段自立維持グループ86名%,28.0%)の3つのグループに分類することができた(BICは-1436.6).軌跡分類の多変量解析結果は歩行は基準となる1グループ(歩行低下グループ)に対する2グループ(歩行自立維持グループ)への所属率が有意であった項目は,社会関連性得点(β=0.36),年齢(β=-0.24),疾患(β=-1.06)の3項目であった.階段昇降軌跡は基準となる1グループ(階段昇降非自立低下グループ)に対する2グループ(階段昇降低下グループ)への所属が有意であった項目は,社会関連性得点(β=0.21),年齢(β=-0.15),性別(β=1.00),疾患(β=-0.78)の4項目,3グループ(階段自立維持グループ)に所属する確率が有意であった項目は,社会関連性得点(β=0.37),年齢(β=-0.29),性別(β=1.10),疾患(β=-1.04)の4項目であった.いずれも社会とのかかわりが高く,年齢が低く,性別が男性で,疾患がない場合に移動能力自立低下グループへの所属に対して,他のグループに所属していた.【考察】 地域住民の移動能力維持において社会とのかかわりをもつことが重要であることが明らかとなった.本分析は対象者の年齢は60歳代であり,低下が顕著な時期ではないため,歩行を維持することができる者が多かったと考えられる.ただし,一方で,自立に近い状態であっても,やや低下しているグループでは,その後時間経過に伴い低下していることが明らかとなり,完全な自立ではない者を機能維持の介入対象として把握する必要性が示唆された.また,階段昇降は,歩行に比べて身体への負荷が高い能力であり,より低下の軌跡分類が顕著であった.維持できているグループは,歩行と同様の経過をたどっていたが,基準年で自立していても,時間経過にともない低下していくグループがあり,早期からの介入の必要性が示された.今後,さらなる分析を進めるとともに,地域住民を対象としたリハビリテーション支援につなげていくことが課題である.【理学療法学研究としての意義】 地域住民の機能維持において理学療法は重要な役割を担っている.本研究の特徴は,移動能力が変動するということ,長期でとらえる必要があることに注目し,複数時点で長期間の推移を捉えて,経時的な変化の傾向を分類し,影響要因を検証したことであり,その結果移動能力への社会とのかかわりの影響を明らかにできたという点で理学療法学研究としての意義があるといえる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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