理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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子宮体部の皮膚分節領域への変調周波数TENSが月経困難症におよぼす影響
山口 美優北裏 真己徳田 光紀庄本 康治
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p. Fb0797

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抄録
【はじめに、目的】 月経困難症は,女性の52-70%が経験すると言われており,女性が仕事を休む理由として最頻出項目であることが報告されている(Dawood MY,1983;Dingfelder JR,1981)そこで近年,月経困難症に対する新しい治療法として経皮的電気刺激(Transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)が注目されている.先行研究において,TENSは,月経困難症の原因と考えられる子宮の虚血を改善させ,痛みを改善させることが認められている(Neighbors LE,1987;Lundeberg T,1985).一般的にTENSの主な鎮痛効果はゲートコントロール理論によるものと考えられている.鎮痛効果を最大限に反映するためには,疼痛の強い部位と同一皮膚分節領域上に電極を設置すべきであり,妊娠人工中絶後の疼痛に対しては,その理論を応用し,Th12-L1に電極を設置し鎮痛効果を報告している(Platon B,2010).また,TENSは設定周波数に依存して異なる内因性オピオイドを放出し鎮痛効果が得られることがわかっている.上記理論を応用すると,TENS実施には,皮膚分節領域を考慮した電極貼付と変調周波数を使用すべきである.しかし,月経困難症に対するTENSの実施方法は統一されておらず,また,本邦では月経困難症へのTENS研究は非常に少ない.よって,本研究では子宮体部と同一皮膚分節領域上に電極を設置し,変調周波数を用いたTENSが,月経困難症の疼痛軽減に有効であるか検討した.【方法】 対象は,月経が定期的であり婦人科系疾患がない健常女性2名である.TENSにはcefar rehab×2(cefar compex社製)を使用した.研究プロトコルはA-B-Aデザインに従い,基礎水準(A)期と操作導入(B)期を設定し,BにTENSを実施した.また,第一基礎水準期をA1期,第二基礎水準期をA2期とした.パルス持続時間200μs,周波数は1~250Hzで変調させ,強度は不快でない最大の強度に40%設定した.治療時期は月経による最大疼痛が予測された1日のみとし,治療時間は疼痛が出現した時点から30分間とした.電極は自着性電極{CHATTANNOOGA社製(DURA-STICKII,7cm×12.7cm)}を4極使用し,電極貼付位置はJK Keeganらの皮膚分節領域を参照し,電極1は臍より約3cm下方両側,電極2はTh12胸椎より3cm下方にそれぞれ2極貼付し,いずれもT12-L1領域内とした.評価項目は,100mmVAS(以下VAS)とマクギル疼痛質問紙表(以下MPQ)とし,A期では最大疼痛出現後に,B期では最大疼痛が出現しTENS開始後30分毎に測定を5回実施した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,先行研究での知見を含めた充分な説明を口頭で行い,自由意志にて同意を得た.【結果】 症例1において,VASはA1期A2期ともに大きな変化はなかった.B期のTENS直後には,最大疼痛時(初期評価時)の71mmが59mmとなり,その後も段階的に減少し,120分後には9mmとなった.MPQは,A1期A2期において最大疼痛時の30分後から120分後まで著変なかったが,B期のTENS直後には,最大疼痛時の41点が20点と減点し,120分後も20点と鎮痛の持続効果を認めた.症例2において,VASはA1期で90分以降に減少を示した.B期のTENS直後には,最大疼痛時の77mmが52mmと減少し,120分後には11mmとなった.MPQではA1期,A2期,B期ともに著変は認められなかった.また,TENSによる火傷や皮膚疾患等の副作用は認められなかった.【考察】 本研究は月経困難症の疼痛に対してTENSを施行し,疼痛軽減を調査した.VASでは,両症例においてB期に疼痛の大幅な軽減が認められ,症例1については,MPQでも同様の傾向を示した.これは,Platonらの先行研究と類似していることから,TENSよる鎮痛作用が月経困難症に対しても有効である可能性が示唆された.しかし,月経困難症の症状は,個人差があり,疼痛の程度は環境面・心理面の影響を受けやすい.また,痛みの程度は主観的であるため,今後は,圧痛計などを用い疼痛の客観的な評価を実施するとともに,ランダム化比較試験を行っていきたい.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,本邦では月経困難症に対して,その効果を検証した数少ない症例研究である.結果として,TENSにより月経困難症の疼痛が軽減できたため,新たな治療としての有用性が示唆することができた.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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