理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
高齢者の下肢血流改善を目的とした物理療法に関する検討
─加温および空気圧迫の併用効果と設定条件について─
豊永 優子鬼頭 麻有林 久恵
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p. Fb0799

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抄録

【はじめに、目的】 高齢者は様々な足の問題を抱えている。加齢に伴い足部の皮膚は、乾燥や弾力性の減少がみられる。血管系では、動脈硬化に伴う末梢9動脈血流の低下、活動量低下による下肢ポンプ機能低下に起因する静脈還流低下がみられる。したがって、高齢者の足は傷つきやすく、創傷が一度できると治りにくいため予防的フットケアが重要である。足浴はフットケアとして用いられており、間歇的空気圧迫法は末梢循環障害への血流改善効果が報告されている。我々は、これまでに過熱水蒸気を用いた足浴装置を試作し、足部の皮膚血流量および表面皮膚温の上昇作用が得られることを確認してきた。さらに間歇的空気圧迫装置を連動させる機能を付加し、加温と圧迫を併用することで下肢の血流改善を効率よく促進し、末梢の組織酸素飽和度改善が得られると考えた。そこで本研究は、高齢者の下肢血流改善を目的に、過熱水蒸気を用いた加温と間歇的空気圧迫を併用した物理療法を行う際の効果的な設定条件に関して検討を行った。【方法】 対象は、地域在住高齢者11名(71.8±5.3歳)とした。環境順化20分、安静座位を5分、物理療法15分、終了後安静座位5分とし、安静座位より25分間、足部の皮膚血流量、酸素化ヘモグロビン(O2Hb)、還元へモグロビン(HHb)、組織酸素化指標(TOI)を連続的に測定した。また皮膚温、角質水分量は物理療法前後で測定を行った。物理療法は、圧迫のみ(条件1)、加温のみ(条件2)、加温+圧迫2回3セット(条件3)、加温+圧迫1回3セット(条件4)の4条件を設定した。【倫理的配慮、説明と同意】 測定開始前に被験者に対して研究の主旨と方法、研究協力の自由意志、いつでも中止できることを文書および口頭で説明し、書面による同意を得た。なお本研究は、名古屋大学医学部生命倫理委員会の承認(承認番号804) を得て行った。【結果】 足背部皮膚血流量は、条件2、条件4で有意な増加を認めた(物理療法前vs後,0.63→1.87 ml/min/100g , 1.48→5.67 ml/min/100g; p<0.05)。TOIは、条件2で有意な減少、条件4では有意な増加を認めた(物理療法前vs後,46.0→44.5%, 44.0→58.0%; p<0.05)。条件1,3では、増加傾向が見られた。足背部表面皮膚温度は、条件2,条件3,条件4で有意な増加を認めた(物理療法前vs後29.0→32.7℃, 29.8→32.8℃, 24.1→32.0℃;p<0.05)。角質水分量も条件2,条件3,条件4 で有意な増加を認めた(物理療法前vs後29.8→38.6%, 33.5→40.6%, 24.1→36.3%; p<0.05)。条件1で有意差は認めなかっ た。【考察】 血流量は条件2、条件4において増加し、加温による血管の拡張が十分に得られたと考えられる。条件4においては血流量の増加が特に大きく、静脈還流の促進に加え、良好な反応性の充血が得られていたことが示唆された。組織の酸素飽和度を示すTOIについては条件4のみで有意な増加が観察され、組織への酸素供給が需要を上回る状態にあったと推察される。間欠的空気圧迫はNOおよびプロスタサイクリンの産生を促進し,血管拡張作用を発揮することが報告されており[Giddings JC,Morris RJ et al. 2004]、この作用が付加されたこと によって加温・圧迫併用時にはそれぞれを単独で行うよりも末梢の血流改善、酸素供給が効率的に行われたものと考える。また、加温と圧迫を併用した条件でも、皮膚温、角質水分量が改善されている。このことから、加温によるフットケアの末梢への温熱作用、保湿効果が圧迫を併用しても損なわれないことが確認された。【理学療法学研究としての意義】 高齢者の下肢血流改善効果は、加温・圧迫を単独で行うよりも、併用時に大きいことが確認された。併用条件については、加温+圧迫1回を3セット行った場合に、組織への酸素供給が効率的に行われることが示唆された。[H1] 末梢の血管拡張 能が低下している高齢者に対して、加温と圧迫を併用することで、加温や圧迫を単独で行なうよりも効果的に末梢の循環改善が得られ、予防的なフットケアをして有効であることが示唆された。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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