理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
振動刺激による下腿三頭筋の筋緊張抑制効果の検証
─安静時および動作時において─
岡本 伸弘増見 伸兒玉 隆之堀口 喬濱田 大樹
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p. Fb0804

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抄録

【はじめに、目的】 臨床において,脳血管障害患者に対する歩行ならびにADL再獲得の阻害要因の一つに,筋スパズムや痙縮などの筋緊張亢進状態が挙げられる。そのため,筋緊張抑制を目的とした様々な治療介入が行われている。近年,筋緊張抑制効果を目的とした振動刺激の有用性が報告されており,実際の脳血管疾患患者に振動刺激を施行し,筋緊張抑制効果を調べた研究でも痙縮抑制効果を認めている。しかし,それら研究は安静時での報告が多く,振動刺激による筋緊張の変化が,動作に対してどのような影響を及ぼすかを研究した報告は,我々が探索したところ見あたらない。そこで今回,我々は振動刺激による筋緊張抑制効果が脳血管障害患者の安静時の身体状態および動作にどのような影響を及ぼすかを検証した。【方法】 対象は,脳血管疾患患者24名(男性18名,女性6名,年齢57.4±10.9歳),被験下肢は24肢(右麻痺9名,左麻痺15名)とした。対象を,振動刺激を施行した者;以下,刺激群(男性8名,女性4名,年齢59.3±9.8歳)と振動刺激を施行しなかった者;以下,コントロール群(男性10名,女性2名,年齢55.6±12.1歳)に分けた。すべての被験者は,ベッド上腹臥位にて5分間の安静を行った後,「足関節背屈可動域」および「modified Ashworth scale:以下,MAS」・「筋硬度」を測定した。また,「10m歩行速度」および「麻痺側立脚期時間」を測定した。次に,両群とも1週間以上の間隔を開け,刺激群では,ベッド上腹臥位にて5分間の安静を行った後,3分間振動刺激を施行し,各測定を行った。また,コントロール群では,ベッド上腹臥位にて8分間の安静を行った後,各測定を行った。なお,各測定が,次の測定に影響を及ぼすことを避けるため,1日以上の間隔を空け実施した。測定肢位および振動刺激肢位は腹臥位で,膝関節30°屈曲位,足関節0°底屈位とし,刺激被験部位は麻痺側アキレス腱部とした。統計処理について,群間比較(刺激群×コントロール群)および(刺激前×刺激後)には,二元配置分散分析にて検定を行い,多重比較検定には,Tukey-Kramer法を用いた。なお,有意水準は0.05%とし,それ以下を統計学的有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。研究に先立ち,所属機関の倫理委員会の承認を得た。すべての被験者に対して,紙面上および口頭による説明を行い,同意および承諾を得た後に実施した。【結果】 群間比較において,両群とも振動刺激前では,全ての項目に有意差を認めなかった(p>0.05)。振動刺激後では,刺激群はコントロール群に比べ,足関節背屈可動域が有意に高値であり(p<0.05),MASおよび筋硬度は,有意に低値を示した(p<0.05)。一方,10m歩行速度および麻痺側立脚期時間では,両群に有意差を認めなかった。(p>0.05)。また,刺激群における振動刺激前後の各項目比較において,足関節背屈可動域・MAS・筋硬度に有意差を認めた(p<0.05)。一方,10m歩行速度および麻痺側立脚期時間では,有意差を認めなかった。(p>0.05)。【考察】 先行研究では,振動刺激により下腿三頭筋のH/M 比が低値を示し,脊髄運動細胞の興奮性が抑制された報告がある。我々の研究では,下腿三頭筋の振動刺激により,足関節背屈可動域拡大および筋緊張・筋硬度の低下がみられた。これは,先行研究と同様に脊髄運動細胞の興奮性が抑制され,筋緊張の変化が生じたと考えられた。さらに,10m歩行速度および麻痺側立脚期時間においては,振動刺激前後で有意差を認めなかったことから,これらに影響を与える因子は筋緊張の変化のみではない可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 今回,脳血管障害患者に対する振動刺激の筋緊張抑制効果について,可動域および筋緊張・筋硬度という評価に加え,10m歩行速度および麻痺側立脚期時間といった理学療法で多く実施される評価方法で報告できたことは,理学療法にとって大きな意義があると考える。また,振動刺激のさらなる臨床応用に向けた一歩を踏み出したものである。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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