理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
ペダリング運動と治療的電気刺激の併用治療による脳卒中患者の歩行能力への効果
松永 玄山口 智史横山 明正近藤 国嗣大高 洋平
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p. Fe0102

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抄録

【はじめに、目的】 脳卒中患者においては,ペダリング運動が共同運動や痙縮の改善とそれに伴う麻痺側下肢の筋活動促通と選択的・相的活性化に有効なことが報告されている(Fujiwara et al,2005).また,治療的電気刺激は麻痺肢の随意性向上,痙縮筋の軽減などの有効性が知られている(Pomeroy et al,2006).今回,脳卒中片麻痺患者を対象とし,共同運動や痙縮によって非対称となっている下肢運動に対して,ペダリング運動中に電気刺激を行うことで,交互運動の改善に伴う歩行能力への相乗効果が得られるかどうか,シングルケースデザインを用いて検討した.【方法】 研究デザインは,ABABデザインとし,期間を非介入期(A),介入期(B)を交互に1週間(週5日)ずつ実施した.対象は回復期脳卒中患者3症例(年齢70歳±7.1,発症後69日±12.2)であった.下肢運動麻痺は,Brunnstrom-stageII・IV・V,歩行能力は監視レベル以上であった.3症例は,無作為にペダリングのみ(PE),治療的電気刺激のみ(TES),ペダリング運動と電気刺激の併用(PE+TES)に振り分けた.PEは多機能型エルゴメータ(Strengthergo240,三菱電機社製)を使用した.運動様式はアイソトニックモード,負荷量5Nm、正回転で任意のペダル回転速度で10分間とした.TESには,トリオ300(伊藤超短波社製)を用いた.刺激設定は,周波数100Hz、持続時間100μsecとした.刺激部位は大腿四頭筋および前脛骨筋とした.刺激強度は,わずかに刺激を感じる最低強度の120%で筋収縮が起こらない強度とした.刺激時間は,エルゴメータ上での端座位で10分間持続して通電した.PE+TESでは,ペダリング運動中の全周期に麻痺側下肢へ治療的電気刺激を持続的に付加し10分間実施した.介入期には,通常の理学療法(1時間)終了後に,各10分間の治療介入を行い,非介入期には通常の理学療法のみを実施した.評価は,10m最速歩行時間および歩数を毎回計測し,最大歩行速度および重複歩幅を算出した.解析では,中央分割法を用い,非介入期からceleration lineを求め,延長したceleration lineと比較した介入期の上位数を2項分布により検定した.有意水準はp=0.01とした.また非介入および介入前後で,足関節のmodified Ashworth scale,Brunnstrom-stage(下肢),SIASの運動項目(下肢),ストレングスエルゴにて下肢伸展トルク(Nm)と健患比(%麻痺側下肢/非麻痺側)を測定した.【倫理的配慮、説明と同意】 所属機関における倫理審査会の承認を得た上で,全ての対象者に研究について十分に説明し同意を得た.【結果】 PE+TES実施例では,最大歩行速度は介入前1.8m/s,4週間の介入後2.5m/sで増加を認めた.非介入期のceleration lineとの比較では,介入期の全てで高い値を示し,有意な増加を認めた.一方,PE実施例では,介入前1.1m/s,4週間の介入後1.5m/sであった.TES実施例では,介入前0.8m/s,4週間の介入後1.0m/sであった.またceleration lineとの比較では,PEおよびTESにおいては,有意な増加を認めなかった.重複歩幅は3実施例全てで有意な改善を認めなかった.下肢伸展トルクにおいては,PE+TES実施例およびPE実施例では両下肢の下肢伸展トルクに増大を認めた.一方で,TES実施例では麻痺側のみで増大を認めた.健患比は,PE+TES症例のみで,介入前82.1%,4週間の介入後103.0%で麻痺側と非麻痺側の伸展トルクの差がなくなった.他の測定項目においては,著明な変化を認めなかった.【考察】 PE+TES実施例では最大歩行速度と脚伸展トルクが増加し,さらに麻痺側と非麻痺側の筋力の差が減少した.これは,ペダリング運動の効果である左右対称性の筋活動促通と治療的電気刺激の効果である随意運動を改善することの相乗効果によるものだと考えられる.また歩行速度の改善は,重複歩幅に変化がないことから,歩行率の改善によるものだと推察される.これらの改善は,ペダリング運動と電気刺激を合わせることで,麻痺側下肢の随意運動改善に伴い交互運動が改善したためだと考えられる.しかしながら,本研究はシングルケースでの検討である.そのため今後,症例数を増やし,対照研究を行い検証していきたい.【理学療法学研究としての意義】 本研究ではペダリング運動と治療的電気刺激を併用し,単独使用より同時適応することで,より治療効果が高くなる可能性を示した.ペダリング運動と治療的電気刺激は,機器を所有している施設も多く,臨床や研究で適用するための一助になると考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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