理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
下肢深層筋の廃用性筋萎縮に対する低周波及び中周波電気刺激の予防効果
田中 稔平山 佑介藤田 直人藤野 英己
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p. Fe0101

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抄録

【はじめに、目的】 身体の深層に位置する骨格筋は遅筋線維の割合が高く、その萎縮は姿勢保持を困難にするとともに、高齢者の易転倒性にも関与している。また、遅筋は速筋に比べて廃用による影響を受けやすいため、遅筋の萎縮を予防することは、理学療法の観点から非常に重要であると考えられる。これまで、筋萎縮の予防手段として、治療的電気刺激(TES)が使用され、その有効性が報告されている。低周波によるTESでは、浅層の骨格筋には有効であるが、深層の骨格筋には効果が低いとされている。一方、中周波によるTESは深部への到達度が低周波より高いと報告されている。そこで、中周波TESを用いることで、低周波では困難とされていた深層筋に萎縮予防効果が認められれば、廃用による遅筋の萎縮に対する治療法として、TESの応用範囲が広がると予想される。本研究では、下肢深層筋の廃用性萎縮に対する低周波及び中周波の予防効果の相違について検証した。【方法】 20週齢の雄性SDラットを対照群(Cont群)、後肢非荷重群(HU群)、後肢非荷重期間中にTESを実施した群に区分した。TESは後肢非荷重開始日の翌日から行い、左後肢には低周波(l-TES群)、右後肢には中周波(m-TES群)を用いて実施した。低周波電気刺激は100Hzの矩形波、中周波は変調された正弦波(変調波)とし、l-TES群とm-TES群ともに、等尺性収縮にて超最大刺激となる強度を用いた。2週間の後肢非荷重期間終了後、腓腹筋とヒラメ筋を摘出し、10μm厚に薄切し、ATPase染色(pH4.5)を施した。光学顕微鏡を用いて筋線維タイプ別の筋線維横断面積を計測した。また、ヒラメ筋のユビキチン化タンパク質の発現量をWestern Blotting法により測定した。測定データの統計解析には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 腓腹筋浅層では、タイプIIA及びIIB線維の横断面積が、HU群でCont群に比べて有意に低値を示した。一方、TESを行ったl-TES群とm-TES群の筋線維横断面積はHU群に比較して有意に高値を示した。腓腹筋深層では、タイプI、IIA及びIIB線維の横断面積で、HU群はCont群に比べて有意に低値を示した。また、l-TES群はCont群に比べて有意に低値を示し、HU群との間に有意差を認めなかった。一方、m-TES群はHU群に比べて有意に高値を示し、IIA線維ではl-TES群よりも高値を示した。ヒラメ筋ではタイプI及びIIA線維の横断面積で、Cont群に比べてHU群及びl-TES群では有意に低値を示したが、m-TES群の筋線維横断面積はHU群とl-TES群に比べて有意に高値を示した。ヒラメ筋のユビキチン化タンパク質の発現量は、Cont群に比べてHU群とl-TES群で有意に増加し、HU群とl-TES群の間には有意差を認めなかった。一方、m-TES群におけるユビキチン化タンパク質の発現量は、HU群とl-TES群に比べて有意に減少した。【考察】 深層筋におけるTESの萎縮予防効果は、低周波よりも中周波で高かった。深層筋へのTESの効果は深部到達効果に依存すると考えられる。TESの深部到達効果は皮膚インピーダンスに依存するとされ、中周波によるTESの皮膚インピーダンスは低周波よりも低値であることから、中周波によるTESでは深部到達効果が高かったものと考えられる。また、m-TES群で用いた正弦波はl-TES群で用いた矩形波に比べて深部到達効果が高いことから、中周波によるTESはその波形特性から深部到達効果が高かったものと考えられる。一方、m-TES群では、ヒラメ筋の廃用に伴うユビキチン化タンパク質の過剰発現が抑制され、筋線維横断面積の減少は軽減された。これに対してl-TES群では、筋線維横断面積の減少は軽減されなかった。この結果は、中周波によるTESが深部まで到達し、ユビキチン-プロテアソーム系を介したタンパク質分解を抑制したことでヒラメ筋の筋萎縮が軽減できたと考えられる。これらの結果より中周波によるTESでは筋線維横断面積減少の軽減及び筋線維タンパク質分解の抑制効果が認められ、浅層の腓腹筋だけではなく深層のヒラメ筋にも萎縮予防効果が得られるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 理学療法の観点から深層筋の廃用性筋萎縮の予防は非常に重要であり、本研究は中周波を用いたTESにより深層筋の廃用性筋萎縮が予防できることを検証できた点で意義あるものである。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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