理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
腹部外科手術後症例に対する経皮的電気刺激治療が疼痛,呼吸機能に及ぼす影響
─無作為化比較試験による検討─
徳田 光紀田平 一行増田 崇西和田 敬庄本 康治
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p. Fe0104

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抄録

【はじめに、目的】 腹部外科手術後は早期離床,肺合併症の予防の観点から効果的な鎮痛や呼吸機能の改善が必要とされる.腹部外科手術後の鎮痛には薬物療法が中心に実施されるが,副作用の問題があり,鎮痛薬は極力少量とされることが望ましい.一方で,経皮的電気刺激治療(Transcutaneous electrical nerve stimulation: TENS)はゲートコントロール理論と内因性オピオイド放出などによる鎮痛効果があり,非侵襲的で副作用がほとんどない理学療法手段として多く使用されている.海外では,腹部外科手術後症例に対してTENSが実施され,鎮痛効果ならびに肺活量(vital capacity: VC)を増加させるなどの呼吸機能改善効果に関する多くの研究結果が示されているが,本邦での報告は散見される程度である.また,術後肺合併症の予防には喀痰排出に関する咳嗽力の影響が大きい.咳嗽力は咳嗽時最大呼気流量(cough peak flow: CPF)として評価され,神経筋疾患を対象とした報告は多くみられるが,外科手術後のCPFを評価し,さらにTENSによる影響を捉えた報告はきわめて少ない.そこで,本研究の目的は,腹部外科手術後症例に対してTENSを実施し,疼痛,VC,CPFへの影響を検討することとした.【方法】 対象は待機的に腹部外科手術を行った35名(男性24名,女性11名,年齢42~86歳)とした. 対象者をcontrol群,placebo群,TENS群の3群にランダムに割り当てた.control群は介入なしで評価のみ実施した.TENSには電気刺激治療器(Chattanooga社製,Intelect ADVANCE COMBO)を使用した.TENS群は対称性二相性パルス波,パルス持続時間200μs,周波数は1~250 Hzで変調させ,強度は不快でない最大の強度に40%変調し,治療時間60分とした.電極は自着性電極(Axelgaard社製,PALS,5 cm×9 cm)を4枚使用し,電極1は術創部から平行に3 cm離して貼付し,電極2は電極1と反対側に術創部から平行に3 cm離して貼付した.placebo群はTENS群と同条件で最初の1分間のみ電気刺激を加え,その後59分間は電極を貼付したままsham刺激として実施した.各介入は,術直後(術後0日目)から術後3日目まで1日1回ずつ実施した.疼痛評価は安静時痛と咳嗽時痛を100mmのVisual Analog Scale(VAS)で測定した.VC,CPF測定には電子スパイロメーター(日本光電社製,HI-201)を使用し,測定肢位は座位とした.各評価は術後3日目の介入前,介入開始30分後(介入中),介入終了20分後(介入後)に実施した.統計解析は各評価項目について,介入時間別に1元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較を行った.また,placebo群とTENS群の治療効果を検討するために2元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較を行った.いずれも有意水準5 %未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には,本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,同意および署名を得た.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得た(承認番号09- 2).【結果】 介入前は全評価項目において各群間に有意差は認めなかった.疼痛において介入中と介入後でcontrol群およびplacebo群とTENS群で有意差を認めた.VC,CPFにおいて介入中でcontrol群およびplacebo群とTENS群で有意差を認めた.control群とplacebo群は全評価項目において有意差は認めなかった.また,placebo群とTENS群では全評価項目で交互作用を認め,治療および介入時間の主効果も認めた.疼痛において介入中のTENS群(安静時痛5.4±7.0mm,咳嗽時痛65.4±13.8mm)はplacebo群(安静時痛25.3±6. mm,咳嗽時痛79.1±7.1 mm)よりも有意に低値を示した.また,VC,CPFにおいて介入中のTENS群(VC: 1996.2±323.0ml,CPF: 234.3±45.1)はplacebo群(VC:1671.8±424.3ml,CPF: 195.1±89.9)よりも有意に高値を示した.多重比較の結果,TENS群では全評価項目において介入前と比較して介入中および介入後で有意差を認めた.【考察】 腹部外科手術後3日目の症例に対して,TENS群ではcontrol群やplacebo群と比較し,介入中と介入後で安静時痛および咳嗽時痛が軽減し,さらにVC,CPFが改善した.特に介入中では,疼痛軽減やVCおよびCPFの改善が顕著であった.腹部外科手術後症例に対するTENSは,鎮痛効果に加え,呼吸機能の改善にも効果的に作用することが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究により腹部外科手術後症例に対するTENSは,呼吸理学療法と併用することで,早期離床や肺合併症の予防に有用な一手段になり得ることが示唆できた.また,急性期鎮痛を目的としたTENSは,理学療法分野拡大にも繋がると考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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