理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
微弱電流介入による褥瘡治療の効果
─褥瘡治癒に至った一症例を通しての試み─
中原 寿志田上 茂雄柚木 直也
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キーワード: 褥瘡, 微弱電流, 電極間距離
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p. Fe0105

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抄録

【はじめに、目的】 我々は、褥瘡に対して交流での微弱電流刺激療法(以下MENS)により肉芽形成の促進につながることが示唆されたと報告した。他にも、創縮小に対する介入方法として電気刺激療法が選択される事は報告されているが、創部の深さに対する物理療法の効果の検証は少ないように感じる。電気刺激において、電極間の距離は電流の深さと進路に影響し2つの電極間の距離が広ければ刺激はより深く浸透できる(以下:遠位貼付)とされている。深さの深い褥瘡に対して、電極を遠位貼付する事でMENSによる効果がより深い組織への刺激が可能になると推測できる。以上の仮説に基づき、褥瘡中心部の肉芽形成が不十分で、褥瘡評価の『深さ』の改善に苦慮した症例に対して、電極間距離を検討した事で『深さ』の改善が見られ、治癒に至った症例を経験したので報告する。【方法】 対象は日常生活自立度Cランク(寝たきりレベル)の80歳代の女性で、入院時より背部(胸椎部)にDESIGN-R20点(D4-e3s3i1G4n0P9)の褥瘡を有する持ち込み症例であった。円背姿勢が著明であり、体位変換は側臥位か半側臥位を中心に約2時間毎に行った。入院翌日よりMENSを開始し、創縮小は見られていたがポケットは残存していた為、9月22日(3週目)医師によるポケット切開処置が行われた。栄養状態は、介入前後とも経管栄養であり血清アルブミン値の経過は2.7~3.3g/dlで基準値より低値であった。看護部は創部洗浄・薬物塗布にて褥瘡ケア介入している。方法は、体位変換の左右の側臥位時に2時間ずつ計4時間のMENS (AT-mini、伊藤超短波株式会社製)を施行。MENSの設定は基本設定のCAREモード・LOWレベル(周波数0.2Hz、パルス幅2.5sec、出力電流は50μA)とし、刺激時間は1日4時間、創部を挟み込むよう創部縁の健常皮膚に刺激電極を貼付した。創部中心部の肉芽形成(深さ)に改善が見られない為、10月1日より刺激電極の貼付位置を検討し、遠位貼付(創部縁より約2.5cm遠位)とした。創面積は、褥瘡処置に帯同し洗浄後にデジタル表示式ノギス(Mitutoyo社製)を使用し測定、褥瘡面評価はDESIGN-Rを用いて行った。【倫理的配慮、説明と同意】 患者および患者家族に対して、MENSによる目的・安全性を十分説明し患者家族から学会発表・学術論文への投稿の許可を得て実施した。【結果】 MENS開始後、創縮小を認めたがポケットは残存し創部表面の縮小が見られた(9月20日:D4-e3s3i0g3n0P6で15点)。ポケット切開処置後も創部中心部の肉芽形成が不十分であり、中心部の深さを残したまま創縮小が見られた(9月30日:D4-e3s3i0g3n0p0で9点)。刺激電極を遠位貼付してからは、創部中心部の肉芽形成が見られるようになり深さの改善(10月15日:d2-e3s3i0g1nop0で7点)が見られ、治療開始から約7週目の10月20日に治癒に至った。【考察】 褥瘡局所治療ガイドラインの中では、創縮小に対して電流刺激療法を行うように奨められており通電方法は、1000μA以下の電流を用いた低電流の直流・高電圧のパルス状の電流・交流が推奨されている。今回、当院では交流の微弱電流治療器(AT-mini)を使用し褥瘡治癒促進を試みた。また、治癒促進に関わる中で褥瘡の深さに対して電極間の距離を離すように介入し深さの改善につながるような介入も試みた。その結果、MENS開始から7週目で治癒に至った。日本褥瘡学会による予後予測では、DESIGN-R19点以上の褥瘡は3ヶ月以上治癒しないとの報告がある。本症例の治療開始時のDESIGN-R20点で7週目での治癒に至った経過を予後予測と比較すると治療期間の短縮につながったことが示唆される。また、創部中心部の深さに対して改善が見られていなかった状態で遠位貼付へと変更し電極間の電流をより深部を狙って流すことで深さの改善につながったことが示唆された。杉元らは、創部と創部周囲に貼付された電極との間に直流微弱電流を通電する時、肉芽増殖の基盤となる線維芽細胞がプラス帯電している為、創部に陰極を置くと電気走性が高くなる。また、交流では同様の効果は得られていないと考えられているが結論にまでは至っていないと述べている。今回は、交流微弱電流刺激による介入であり直流のような選択的な細胞の電気走性は考え難いが、陽極への好中球・マクロファージの引き寄せと陰極への線維芽細胞の引き寄せという電気走性の特徴を考慮すると、創部周囲に電極貼付していることから創部周辺への細胞(線維芽細胞)の集積は可能であったと考える。今回は、一症例の試みであり非介入との比較は行っていない為、MENS単独での効果としては言い難いが、褥瘡治癒に要する期間は短縮できたと考える。今後も、MENSの効果を検証していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 褥瘡に対するMENS介入で、治癒促進に対する補完療法として期待できる為、理学療法の柱である物理療法の有効性が示唆された。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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