抄録
【目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の管理法には禁煙指導, 薬物療法, 呼吸リハビリテーション, 酸素療法, 換気補助療法, 外科療法がある. COPDの一次予防はタバコ煙の曝露からの回避であり, 防煙・禁煙教育が国内外ともに推進されている. WHOは2005年の世界禁煙のテーマとして「タバコ・コントロールにおけるヘルスプロフェッショナルの役割」を掲げ, 保健医療専門家がそれぞれの立場でタバコ規制に向かって行動を起こすように求めている. 全ての理学療法士(PT)は非喫煙者であることを目指し, そして禁煙推進に取り組む必要がある. しかしながら, PTの喫煙状況や禁煙に対する意識について報告がなく, 近年の現状を把握する事ができない. 本研究の目的は, 呼吸理学療法関連の講習会に参加したPTを対象として, 喫煙・禁煙に対する状況や意識・環境, さらには禁煙教育の即時効果について調査する事とした.【方法】 対象は現職者講習会に参加したPT77名(年齢26.0±5.0歳, 男性47名,女性33名)とし、禁煙教育の前後でたばこに関する意識とニコチン依存度についてアンケート調査を行った. アンケートは無記名の自記式調査票を用い, 加濃式社会的ニコチン依存度質問表(KTSND), Fagerstrom Test for Nicotine Dependence(FTND), タバコ依存度スクリーニングテスト(TDS)を組み合わせ全ての項目が抽出できるようにした. この他, いくつかの質問項目を加えた(結果参照). 禁煙教育は60分間とした. 教育内容は実際のCOPD患者の病態や呼吸困難の状況, 喫煙が身体に及ぼす影響, 受動喫煙の影響, ニコチン依存と喫煙習慣, 禁煙の基本や禁煙教育の国内外の状況等とした. 得られたデータを点数化し, 非喫煙者, 前喫煙者, 喫煙者の傾向を分析した.統計解析にはWilcoxonの順位和検定を用い, 有意水準を5%とした.【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言及び厚生労働省の「臨床研究に関する指針」に沿って研究を計画・実施した. 被験者には本研究の目的と内容を説明し, アンケート提出をもって同意を得たとした.【結果】 喫煙者は17名, 前喫煙者は14名, 非喫煙者は43名であった(有効回答率96.1%). 非喫煙者の30.2%が副流煙の暴露環境下で生活しており、前喫煙者の30.8%が再喫煙への欲望を抱えていた. 喫煙者のニコチン依存度はFTND:1.3±2.4, TDS:2.7±1.4と低い傾向にあった. KTSNDは講習会前後で平均17.3±2.9から11.5±5.2へと有意に減少した(p<0.01). 質問項目「タバコを吸うことについて5段階で評価してください(どちらでもよい(1)~吸ってはいけない(5)の5段階)」は, 講習会前後でその中央値が3(四分位25-75:1,5)から5(四分位25-75:4,5)へと有意に増加した(p<0.01). 喫煙者への質問「あなたは禁煙することに関心がありますか?(全く関心がない(1)~今から禁煙する(5)の5段階)」は, 講習会前後でその中央値が2(四分位25-75:2,3.5)から4(四分位25-75:2,5)へと有意に増加した(p<0.05).講習会後のみ質問した項目「医療従事者の喫煙をどう思いますか?(喫煙する権利がある (1),どちらでも良いと思う(2),好ましくない(3)の3段階)」について66%が「好ましくない」と答え,「日本理学療法士協会が禁煙宣言を採択することについてどう思いますか?(5段階)」については「賛成(57%)」「やや賛成(21%)」「どちらでもよい(22%)」「やや反対(0%)」「反対(0%)」であった.【考察】 本調査対象の喫煙率23%(男性34.9%,女性7.1%)は, PTの喫煙率の報告がなく比較できないが, 平成20年厚生労働省国民健康栄養調査の成人喫煙率(20歳代の男性41.2%, 女性14.3%)よりも低い傾向を示したものの, 医師喫煙率(男性15.0%,女性4.6%)ならびに看護師喫煙率(19.9%)よりも高い傾向を示した. 対象者の殆どが「医療従事者の喫煙は好ましくない」と回答し, 日本理学療法士協会の「禁煙宣言」にも賛成の意思を示していた. 近年多くの医学会や日本医師会, 日本看護協会などが「禁煙宣言」を行っている. PTもCOPDの呼吸リハビリテーション専門家として「禁煙宣言」を表明する等のCOPD一次予防の活動を積極的に実施する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 PTはCOPDの呼吸リハビリテーション専門家として, 禁煙指導等の予防活動にも関与すべきであり, 本研究はその基礎的研究データとなる.